「農協残酷物語」

「んーっと・・・そこに親戚とその家族構成、特に結婚間近の親戚や結婚直後の人がいたら二重丸にしといてね」
「それから一応保険はまず最初、自分と家族の保険を切り替えて・・・と、それを契約第1号ってことでね」

就職先の無い田舎で「農協」と言えばある種のエリート職でもあったが、口では農家の皆さんの・・・と言いながらその実態は農家パラサイト状態のこの組織は、まず就職するときから「コネクション」が重要なポイントで、血縁親族を頼って「どうか家の息子を・・・」または「家の娘を・・・」から始まるが、就職してからがまた大変だった。

少し話はずれるが、皆さんの中で生命保険会社の内部を見たことがある人はいるだろうか、大概保険会社は担当者がやってくるか、最近では通販だが、その会社へ行ってみると仰天だ、壁には成績表が大きくかかり、各自の営業成績が棒グラフになっていて、壁には「今日を闘わぬ者に明日はない」とか「やがて、やがての末路に結果はない」など非常に怖い標語がかかっていて、顧客の前では優しそうな勧誘員もここでは目が釣りあがって、派手なスーツに化粧バッチリのおば様・・もとい、お姉さまたちがこぶしを振り上げているのである。

この生命保険の保険勧誘システムは、とにかく新人の勧誘員を引き入れることから始まり、その新人の親戚縁者、友人知人の全てを自社の保険に切り替えさせ、最後に何も顧客がいなくなったら、成績が下がっていられなくなるような形になっている。
つまり個人の人的財産を吸い尽くしながら、発展していくのが生命保険の仕組みなのだが、近年米の販売が自由化されてきた地方の農協では、遅ればせながらこうした生命保険会社のシステムを導入し始めていて、冒頭の場面は各支所へ配属されたその日、新人農協マンが最初にやらされる業務だ。

またこの頃の農協は金のためなら・・・いや言い間違えた、顧客の為なら何でも売る組織になって、健康器具から酒、タバコ、車にガソリン、家電製品、洋服の販売から掛け軸の修理までやっていて、その殆どがそれぞれの農協職員に営業ノルマとして販売が課せられている。
このノルマは厳しいもので、例えガソリンスタンドのアルバイトでも、農協系列なら営業ノルマがあり、大体可愛そうに思った親などが年金をはたいて買っていたりするのだ。

これらの中でも最も収益が高いのは「金」を扱うことで、金融業務、保険業務は現在農協の主軸業務だが、葬祭事業がこれに追随しているか・・・何せ全ての納入商品に販売手数料がかけられる葬祭事業はきっといい商売になっているだろう。
その反面、以前までは政府や行政から来る補助金を一手に引き受け、農家に安い金を払って、これら補助金を高い手数料として農家から取り上げる仕組みがあって、米や野菜を扱ってもウマミがあったが、米の自由化でこれらから収益が上がりにくくなった為、現在の農協は農業生産物に関しては政府買い上げの代理店に過ぎない態度になっている。
つまり「まあ、米も扱いますけど・・」と言う感じになってきているのだが、化学肥料や農業用機械の販売には力が入っている。

さてこうして農協の各支所へ配属された新人達だが、この採用には試用期間があり、例えば半年後、一定のノルマが達成できていない新人はここで支所業務から外され、ガソリンスタンドや、配送業務などに回されることになっていて、これを裁定するのが所長なのだが、この所長にも上からの裁定がある。

せっかく入った農協だが、この時点で新人は辞めていく場合が多い。
考えてみれば酷い話だが、高校を卒業した、または大学を出て田舎へ帰り勤め始めて、
家族や親戚そのまた親戚と頼って保険を集めてくるのだが、これは昼間の窓口業務が終わって夜にやらねばならず、まあ親戚や知人の息子か娘なら仕方なく、皆保険に入るのである。
何ともいびつな営業だが、こうした販売は保険だけではなく、家電製品、「家の○」などの月刊誌、貯金、ビールまであるのだ。

私はしばらくではあるが、営業の世界にいたこともあって、現在でも営業は仕事の半分を占めているのだが、こうした農協のようなシステムの営業では絶対やっていく自信など無い。
去年4月、地元有力者を頼んで専門学校を終えた息子を農協へ入れた父親、この人は私の友人なのだが、彼の息子は10月頃、保険勧誘の成績が振るわず、ガソリンスタンドへ配属変えになったが、その後人間不信から引きこもり状態になり、退職した。

こんなことなら始めからガソリンスタンドに勤務していれば、少なくとも保険勧誘などしなくて良かっただろうし、入ったときにはこうした制度になっていることを知らず、銀行員のように窓口業務をしていればいいのか・・・などと思っていたこの友人の息子にとっては辛い結果となってしまった。

後日、まあ取り合えず挨拶に行こうと、この友人は農協へと顔を出し所長と会ったが、所長は「我々も上から成績が上がらないとうるさく言われるもので・・・」と答え、終始低姿勢だったと言う。

派遣切りで、農業や林業、漁業への転身を考えている人もいると思うが、こうした産業は現在人件費を無視して成り立っているし、新しいやり方でこうした産業を変えよう・・・と言っている地域起こしの団体や個人は凡そだが、その地域では余り高い評価が得られていない場合が多い。

仕事は大変だし、生きていくことも大変だが、どんな仕事にも光と影がある・・。

最近こうした傾向が強くなってなっているが、この話もフィクションと言うことでお願いしたい・・・。

この記事に

T・asada
このブログの記事は「夏未夕 漆綾」第二席下地職人「浅田 正」 (表示名T・asada)が執筆しております。

4件のコメント

  1. 旅行保険や火災保険、疾病保険の簡易な奴は入って居ますが、実は・・実は、生命保険入ったことが有りません~~♪
    宝籤は、買わないと当たらないから、と言って買ったことが有りますが、当たった瞬間に自分が使うチャンスが消滅するお金を残す理由も動機もないという、冷酷な奴です(笑い)。
    多分、友達が農協とか、保険の外交員だったら、冷たい奴だろうと、陰で渾名が冷や奴かも知れません、食べるのは好きです、厚揚げも油揚げも好きです、ついでに心太も好きです~~♪

    昔出張が伸びて、付保期間が切れたことがあって、現地の代理店だったか支店だったかに行って延長しようとしたら、出来無い・・これこれと沢山理由が付いて・・複雑で意味が解りませんでしたが、無保険で業務を継続した記憶では有りませんから、新たなる保険に加入した気がします。

    明治になって日本も資本主義経済になって、確か何とかという数学者も提唱して、各種保険が、始められたようですが、多分、無産階級保護の崇高な理念からだったようにも思いますが、関東大震災の時に、最初は火災保険に入っていた人々が、安心したが、地震その他が起因なら担保されないと言う事で、又偶々、首相不在だったと言うこともあるし、実は裏面条項を良く読むと、担保されないことが分かり、人心はそれなりに不安になった様ですが・・
    ちょっと読んだ本に因れば、それで暴動・虐殺が増えた、って書いてありましたが、頻発した江戸の大火でも、その他の大震災でも、東日本大震災でもそれ程の騒擾が起きていない事を考えれば、事件は伝聞であり、孫引き資料であり、少し怪しい憶測では無いかとも考えています~~♪

    1. ハシビロコウ様、有り難うございます。

      関東大震災の資料には震災発生後の保険金の支払いに付いて、はじめ規模が大きすぎて払えないとしたのですが、後に有力者から先に支払いを起こし、一般には全く恩恵が無かった事から不満が発生しますが、元々保険に入っている経済層は一般庶民よりは少なく、これを暴動の発生要因とするのは少し無理が有っただろうと思います。
      しかし先の東北の地震に鑑みても、こうした在り様は何も変わっていないのだなと言う感じがします。
      農協の制度は色々問題は有るにしても、面倒な事が嫌いな田舎のオッサンには便利な機関であったと言うべきで、特に収穫時決済方式は良い仕組みだったようにも思います。しかし欧米の決済方式が公式決済方となった今日、こうした仕組みも維持が難しく、今では一般金融機関と同じ決済方式に近づきつつあるだろうと思います。
      また日本の農業は厳密には経済理論の外に在って、従って初めから一般経済の換算をすると農業が維持できなくなる事も重要なポイントで、国土維持や食料確保に対する基本政策も含めて価格を設定しないと成立しないかと思います。

  2. 農協は飼料・資材・家電・食料品その他農業~生活に関する全般を少し高く(笑い)売る機関になっているようですが、秋の収穫まで、現金が無くても、生活できるらしいし、息子や娘は、自分の車のガソリンを親父のツケで、農協で自由に好き勝手に使えて、それなりに便利なのかも知れません。年中金がないと心配して暮らすより、収穫後に、1回だけ全ツケを払って、1回だけ心配した方が、心の安寧には良い(笑い)。

    農協は作物の作り方や資材は供給してくれるが、売り方と、儲ける方法は組合員任せという、呑気な商売で、国会では議員が、当選のためだけに活動して、企業組合は専従から成り上がった上部機関の労働貴族が、そこら国会議員を幾ら出せるかという事だけが目標で、組合費を払う会社員の待遇向上には興味なし、いざとなったら、売っちゃう(笑い)。上から下まで遣っていることは同じで、下っ端は、ストレス性胃潰瘍に苦しんで、ノルマが果たせなくなると、解雇されて路頭に迷う~~♪

    それでも、シリアやアフガンのように、空からは、各国の色とりどりの爆弾が降り、地上では他種の勢力の弾丸が跳び回り、爆弾が破裂するよりは、マシだと思うしかない~~♪

    1. この国の経済は一般的にも高齢化と少子化で収縮が大前提となります。つまりマイナスは当たり前の状態で利益ヲ出さねばならない状態である事を考えるなら、農業政策は一般経済以上に難しい局面を迎えていることになりますが、ここで中間問屋である農協などはどちらかと言えば排除の方向に向かう中、この仕組みで長く経営が維持されてきた地域農業の高齢化脱出は進んでいないばかりか、逆に高齢化が進みが年金資本の流入に拠って維持される形態も発生してきています。
      つまり農業や漁業、林業は趣味となりつつあるようなもので、これらは国際社会の農業感覚とどんどん乖離する事になります。
      文字通り曲がり角ですが、私としては田畑は天から預かっているもの、天との契約であると言う基本を忘れずにいたいものだと思うのです。

      コメント、有り難うございました。

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