「おーい、誰かいるかー」

昭和のSF界にショート・ショートと言う1つのジャンルを築いた天才、星新一の作品にこんな話がある。

ある日突然、地面に1つの丸い穴が開いているのが見つかり、深そうなので「おーい」とか叫んでみたが反響音が返ってこない、ついで小石を投げてみたが、これもどこまで行っても落ちた音が返ってこない、不思議な穴は底なしだ・・・と言うことになり、初めは遠慮がちに、その内どれだけ棄てても埋まってこないので、人々はどんどんゴミや産業廃棄物を棄てるようになっていき、ついには放射性廃棄物なども棄てられていくようになった。
そしてどこか遠い国のビルの屋上・・・、一人の男性が屋上の空気を吸っていると、空から「おーい」と言う声が聞こえてきて、変だなと思っていたら、今度は小石が飛んできて頭に・・・と言う話だが、怪しい話シリーズ、今夜はこの話に似た事件の記録があるので、紹介してみたいと思う・・・。

1962年1月のことだ・・・。
その夜事件現場付近で寝ていた住民は、夜中過ぎにゴーっと言う竜巻のような音と、まるで鋭い物が空気を切っていくような音で目を覚ましたが、この音はたった1回だけだったので、気にはなったものの、みんなまた眠りについた。

だが翌朝、さすがにあの音は尋常ではなかったと思った近くの農場経営者は、昨夜音がした場所の近くまで行ってみたが、そこで奇妙なものを見つける。
なんと直径50cmほどのきれいな星型の穴が開いていたのだった・・・、その星形はまるでニンジンを金型で切って作ったような鋭さがあり、しかも底は見えず、かなり深そうな様子で、農場経営者は腕を入れてみたが、そのようなことで確認できる深さではなかった。

そこで農場経営者は付近の他の住人にも知らせ、皆で調べてみたが、石を落としてみても一向に底に着いた音はしかった・・・、そればかりかロープの先に石を結んで、更にロープを何本も繋いでたらしてみたが、これもどれだけロープを繋いでもどんどん入っていくだけだった。
つまりこの穴は底なしだったのである。
さすがに恐くなった住人たちは警察に連絡したが、いくら警察でもこんな穴を見たことはなかったし、何の見解もできなかったが、取りあえず長い棒を差し込んでみたものの、結果は住人達のほうが先に分かっていた。

それでは今度はと、長い巻きがある針金をくりだしてみたが、やはり一向に底には行き着かなかった・・・、「何だこの穴は・・・」困り果てた警官たちは本署に連絡・・・、数日経って数人の科学者を交えた調査隊がやってきたが、どれだけの調査をしたのかは不明ではあるものの、いちおうの見解はこうだった・・・。
調査の結果は「地盤沈下現象」・・・、こんなきれいな星型の、しかも深さがどれだけかも測れないほど深い地盤沈下?・・・、住人はもとより、この見解には警察当局も納得はできなかったが、そうこうしていると、今度は軍隊の車がやってきて穴の周囲を広い範囲で立ち入り禁止にしてしまい、中で何かやっている様子だったが、ここまで来ると一般住民は「相当まずいことになってるらしい・・・」と感じたのか、この付近には近寄らなくなり、その話も何となくタブーのような感じになっていった。

暫くして軍隊もこの穴の科学的検証を発表したが、なぜか先の科学者たちの調査発表と同じ「地盤沈下」で、しかも今度は軍隊側でしっかり穴を埋めた・・・とまで発表され、この穴の証拠は無くなってしまったのである。
そしてこうした穴は実は1つではなかった。
同じ晩にホランドとハンプシャーの2つの地点で同じものが発見され、いずれも似たような経緯で最後はイギリス軍が穴を処理してしまっていたが、当初イギリス軍はこの穴をソビエトが打ち上げたスプートニクと関係があるのでは・・・と考えたようだ。

この事件から1年後、非公式の見解ではあるが、この穴の処理を現場指揮したという軍関係者の話を、1人の記者がメモに残していて、そこには穴は確かに底が無く、もしかしたら宇宙から飛んできた何かの生物でもいるのではないか・・・と言う意見が出され、放置しておくと危険だということになり、周囲を深く掘って鋼材を渡し、コンクリートで穴に蓋をするように固めて、その上から土を乗せて周囲と分からなくしたことが記されていたとの事だが、ことの真偽は分かっていない。

現在ではその場所すら明確には分からなくなってしまったらしいが、その内いつか大変なものがこの穴から出てこないことを祈るばかりだ・・・。

T・asada
このブログの記事は「夏未夕 漆綾」第二席下地職人「浅田 正」 (表示名T・asada)が執筆しております。

2件のコメント

  1. これも、或る意味「最後の藁1本」の変奏曲かも知れないが、どんな明示的警告も、本人が理解する気が無ければ、破綻が自分に起きるまで、理解しないし、理解した時はお終い(笑い)、と言う事かもしれない。

    原子力発電には、慎重なのですが、2~3か所、10基ぐらいは良いかも。
    余り賛成でない理由は、国土が狭いとか、電力が不足していない、とかと言う理由では無く、今の人類の知能・技術では「神の火」を制御出来ないのじゃなかろうかという事で、天才的頭脳の持ち主が、数百年研究を相対的に安全性が高い所で、研究を進めて行けば、或る程度の運用が可能になる時期が来るのじゃなかろうかと、その運用の可能性を認めても良いかも知れない、と言う意味です。エネルギー源としては魅力的だが、性格最悪の美人みたいなものか(笑い)。

    世界に500基弱の様ですが、これも多分、かなり同時期に廃炉の時期が来て。アメリカは広いから、自国でなんとかするかもしれないが、他の国々は、膨大な核廃棄物の貯蔵施設に困って、それより別の意味で困っている、途上国のつまり南米とアフリカの大統領を買収して(笑い)、押し付けて、それが或る臨界を超えた時に、強烈な影響が出て、まず南米・アフリカがヒトの住めない地域になり、人口移動が起きて、原因を作った先進国は、対処できないばかりか、大混乱が発生して、数十世紀続いて、人類はあえなく滅亡、それはそれで、地球の他の生物には、過去の生物大絶滅が、哺乳類や人類の大発展を齎した様に、良い事かも知れないが、隕石その他の外的要因では無く、身から出た錆~~♪

    地味に長く研究した方が良いかも知れない。

    1. ハシビロコウ様、有り難うございます。

      基本的に原子力が信用出来ないのではなく、「人間」が信用できないと言う事なのかも知れません。
      日本にはIAEAの査察が必要なほどプルトニウムが存在していますが、これも元はアメリカの原子力政策に拠って始まった事でした。
      そして溜まったプルトニウムを使っている事を示さないと処理が間に合わず、しかし国際的には大量の核兵器転用物質を抱えている事になる。
      国民の意思などと言うレベルではないところで日本の原発政策が進んで行かざるを得ない状態です。
      どんなに危険な物質でもその管理がしっかりしていれば有用に働きますが、管理が出来なければ例えマッチ1本の火ですら、人間には脅威になってしまう。
      東日本大震災で原電の放射能が拡散していながら、「コントロールは出来ている」と言った安倍総理では、原発はもとより、マッチ1本でも危ない。つまり信用が無ければプルトニウムも火力、水力も同じ事と言えるだろうと思います。
      この話と同じような事を人間は数多くやってきてしまっているし、今後も続いていく。
      そして結果は突然やってくる事になるのだろうと言う気がします。

      コメント、有り難うございました。

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