「日本の食糧自給政策」

2008年に起った石油高騰、穀物市場の異常な拡大は、それまで全く気にも留めなかった日本の食糧事情に一種の恐慌を起こしたが、日本の食糧自給率の低さは先進7カ国中で最も低い、いや世界的に見てもこれほど自給率が低い国は珍しいくらいだが、穀物相場の異常な値上がりは、嫌が上にも国民の食料自給意識を高め、米の偽装問題とあいまって政府、農林水産省への食料政策に対する批判は日増しに強まっていった。

こうした背景から遅まきながら農林水産省が打ち出した政策と言うのがまた、なかなかに味わい深いというか、いかにもお役所らしいことになっていて、大きな声では言えないが2008年末、漁業関係では新しく特産品を開発している婦人団体などに、それぞれ1団体6億から8億近くの金が拠出されることになり、各漁協や団体などではその金の使い道に苦慮した挙句、使いもしない冷凍倉庫や加工場、大掛かりなアイスクリーム製造機まで作って、利用方法は現在もまだ検討中・・・と言う地域があったり、こうした金目当てに行政が無理やり漁業関係の特産品開発団体を作るよう、漁協婦人部に持ちかけたり・・・と言うことが発生していた。

いきなり大金が舞い込んでくると言っても、その使い道などきまっていない小規模な婦人団体では、「一体こんな金、どうして使ったら良いものか・・・」と悩んでいたが、どうもこの背景には2008年度中に総選挙を想定した麻生政権の、選挙対策のためのバラマキでは・・・と言う噂さが流れていた。

また食料自給率を何が何でも向上させたい麻生政権と農林水産省は、更に曖昧な政策を打ち出していく・・・、一方で米作り農地の減反を進めながら、その一方で休耕田の復元政策を打ち出したのである。
そしてこの「休耕田の復元」の為の予算はほぼ「無制限」に近く、各行政区はこの甘い汁を吸おうと必死になっていき、こうした行政に建設会社がなどがまた群がる、懐かしくも愚かな日本の仕組みが「復元」してくるのだった。

県や市などでは国から文句なしに金が出るこの休耕田復元の為の予算獲得のため、何とかして休耕田の復元ができないものかと考え、昨年以降増えていた都会での失業者や、若手の農業希望者の獲得に必死になっていたが、こうした行政の動きに対して若手の農業希望者はよりよい条件を求め、一番条件の良い地域へ移り住み、そこで各種の補助を受けながら補助金が切れたらまた別の場所で・・・と言うぐあいの「渡り鳥農業者」となっていく傾向が現れてきた。

しかし耕作地整備でも巨額の資金が落ちるこの制度の予算は何が何でも欲しい・・・、ここは多少のことは目をつむって・・・、と言うことになるが、地域おこしプランナーなどにこうした人選を頼み、そして他府県から若手の農業希望者を迎えるが、大体地域起こしプランナーなどが連れてくる人材には一定の傾向があり、それはしっかり根を張って農業・・・と言うよりは「生活を楽しむ」ことに生きることの重点をおいた者が多くなる・・・、つまり農業をスタイルと考えているものが多くなるのだが、こうした姿勢は、与えられる物がより多い方向へと移動していくもので、定着の可能性は少なくなる。

行政や土建業者はこうしたことが分かっていても、復元農地の整備の仕事が欲しくて、「来てくれれば誰でも」になるが、例えば1・5ヘクタールの農地整備に要する費用は2500万円、しかもこうして農地を復元すれば中央のご機嫌も取れるし、仕事や金も入る、政府は「食料自給率向上の為の政策をやってますよ」と声高に国民にアピールできるのである。

その結果がどうなるかと言えば、他府県から来た農業者は全ておんぶに抱っこで農業経営を始め、機械の調達から、ひどい場合は田を耕したり、苗を植える作業までも地元ボランティアに任せて当然の形態になっていくが、やっと引っ張ってきた若手農業経営者だから、行政は村や区などの既存組織を使ってでもボランティアを集め、彼等が自分たちの農作業を休んで、こうしたボランティアにかり出されている場合すら発生する。

そしてやがてこうした農業経営者は補助金が切れると生活できなくなるので、別の府県のまた条件の良い地域へと移動していく、せっかくマスコミも応援し、地域がボランティアまでして支えても、3年後には復元した農地は、また荒地に戻る可能性が高くなっているのである。

こうした政策で使われるお金は、農地整備費用が1・5ヘクタールで2500万円、その補助金は3年でおおよそ250万円、その他各市町村の補助金が200万円、ボランティアも賃料に換算すると、こうして3年間休耕田を復元した費用は大体4000万円を超えていくだろうが、もし私や他の既存農業従事者が4000万円あれば、耕作面積で6倍以上の10ヘクタール、雇用で言えば高齢者などに無理の無い程度で仕事を依頼し、10人の雇用を10年間は維持できるだろう。

だがどうしたことか、既存農業従事者にはこうした話が来ないのは、地域おこしプランナーと言う存在が、常に外の世界への発信しか見ていないためで、本当は地域のことを一番知らない者がその任に当たっているからであり、簡単に言えば「こんな田舎から出たことも無いやつ等には、新しい農業など理解できまい・・・」と言う感覚があるからだと思う。
そして行政がどうしてこうした地域プランナーなる者に依存するかと言えば、根底にある都会に対するコンプレックスではないかと思うが、もっと重要なことはこうした食料自給政策の予算が「国民の税金」であると言う点だろう・・・。

最後に一言、勿論若手農業従事者の全てがこうしたことだと言うわけではなく、全力で夢を追い求めている人もいるだろう・・・、私のところへも来てくれている人の中にも夢を持って農業に転身した人もいる。
この記事はそうした諸氏を指しているものではない。
基本的に補助金を貰って維持する仕事は続かない、そして農業は・・・いや全ての職業は、遊びではない。

T・asada
このブログの記事は「夏未夕 漆綾」第二席下地職人「浅田 正」 (表示名T・asada)が執筆しております。

2件のコメント

  1. 自給率は日本の場合は、80%程度まで上げれば、と言っても現在の2倍だから容易な事では無いが、その向上には、農業をして、子弟に能力が有れば、奨学金でも高等教育を受けさせることができる程度の収入が見込める計画であることが最低限度であろうと、数十年先を見て実施すべきもので、渡り鳥を招き入れることでは無い、渡り鳥は、季節になれば渡って去る~~♪

    今、高齢者も地域によって多様で有るが、高齢者の処遇やら、認知機能が低下~運動機能・社会性が低下してくるのは人の定めだが、言葉美しく「アンチエイジング」と言ったって出来る限度は狭い。
    そう言う政策・方法を考えるのが、高級官僚だったり、識者だったりするばかりで、物言わぬ高齢者~認知機能の低下した人々が、ほとんど入って居ないというのは、無知であるし、高慢であるし、事実認識が間違っていると思われても仕方が無い意見を取りまとめて、問題を複雑にしている。
    とはいうものの、小学生とか中学生で、不登校傾向のある子供たちを集めて、言いたいことを言ってもらうのは、流行っているが、よほど経済的に恵まれているなら別だが、道が開けるのは1/1000位にしか見えない。未だ今後どうなるか大いに未知数の、二十歳代の人々に、激励されて、それでよいと思い込んでも、それも同じ。
    人類の経験では、国家の歴史も文化も個人も、臨界点を超えてからは回復はほぼ困難で、出来る時以内に最低限出来ることをしてこなかった国家や人に待っているのは、感じる能力が残って居れば、後悔~慙愧が圧倒的~~♪
    ローマは残ったが、ローマ人は行方不明(悲)
    すべて違う事を、単純な平等論理で、解決は出来ない。

    1. ハシビロコウさま、有り難うございます。

      食料自給政策、経済政策、政治もそうですが、これらは基本的に日本が縮小して行く事を前提にしないと、どんな方策を立てても失敗する。しかし政府の政策と言うのは経済や雇用でも統計の取り方を歪めてでも、その政策の正当性を守ろうとしているようで、これでは初めから見込みが無い。
      与党野党含めて、これだけのことになって来ていても、日本の現実が見えない状況は国民の不幸としかいいようが無い。
      残念ですがこの国の未来はない。
      それゆえ未来は自分の手で作るしかなく、この作業を行わない、考えない者は現状を肯定する者も否定する者も含めて同じ運命を辿る。多少リスクを背負っても、私は死ぬまで挑戦したい、そう思います。

      コメント、有り難うございました。

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