「進化の形」

ハチの祖先はアリ?・・・と考えている人もいるかもしれないが、実はアリはハチの進化形・・・、つまりハチが進化したものだと考えられている。
どう見てもハチとアリではハチのほうが羽根もあるし、強力な毒も持っている、地面を這いずり回って働いているアリからすれば、いかにも進んだ感じがするのだが、それを構成している生物的社会組織を比べると、アリのほうがハチより3世代ほど進んだ安定性と、生物としての自然適応能力を獲得しているのである。

つまり現在の段階で、もし環境が激変してもアリのほうがハチよりはるかに適応能力と耐性があり、アリは自身の環境に対する必要上羽根を持たなくなった・・・、と言うより必要としなくなったのである。
生物の世界では大きな生物より体積の小さい生物のほうが常に有利であり、こうした小さい生物は単体では大きな寿命を持たないが、種全体としてみた場合は、小さな種で繁殖能力を大幅に拡大していった生物種の方が自然環境に対する適応力が高い。

また運動能力や機能の面で、人間はどうしてもこれらに優れている生物のほうがより進化した形・・・と考えがちだが、実は後退したような進化もまた存在する。
今夜はそうした後退に見えて進化した「亜生物」ウィルスについての話だ・・・。

ビールス、バイラス、濾過性病原体などとも言われるが、細菌よりも小さく、10~300ナノメートルの粒子で、DNAかRNAかいずれか一方の核酸とたんぱく質を含み、自身で物質代謝やエネルギー代謝はできず、他の生物の細胞内でのみ増殖することから「生物」と言うことは難しいかも知れず、それゆえ「亜生物」と表現したが、普通はウィルスも微生物の一種と見做されている。
ウィルスが増殖するのに必要な情報は核酸の中に含まれているが、ウィルスは寄生する相手によって「細菌ウィルス」「植物ウィルス」「動物ウィルス」に分けられ、また含んでいる核酸の種類によってもDNAウィルス、RNAウィルスに分けられることがあるが、多くのウィルスはDNAウィルスに属している。

RNAウィルスには1本のRNAを持つもの、同種のRNAを2本持つもの(レトロウィルス)などがあるが、インフルエンザウィルスなどでは、8本もの異なるRNA分子を持っている。
そして感染した細胞でRNAがDNA に逆転写されるウィルスを「レトロウィルス」と言い、インフルエンザウィルス、HIVウィルスなどがこのレトロウィルスである。
ウィルスはかつては単体でも生物であったが、他生物の細胞内で寄生生活を続けるうちに、自身の物質代謝やエネルギー代謝の能力を失い、自己増殖能力のみが残って発展したものと考えられている。
つまり、機能を失ってしまったが、これも一つの進化の形なのである。

また生物や細菌などでは原因は解っていないが、進化の形として突然変異がある。
冒頭のハチで言えば、アフリカミツバチとヨーロッパミツバチの混血種で「キラービー」、殺人ハチと呼ばれる猛毒を持つハチの存在が知られていて、刺されると50%ほどの確率で死に至るものがあり、このハチが南米大陸から北米大陸に向かって増え続けている可能性がある。
これまでに数百人の死亡が確認され、数千頭の動物が犠牲になったと言われているが、その正確な数字はまだつかめていない。
ヨーロッパミツバチに比べ、アフリカミツバチは獰猛な性格を持っていて、1957年にブラジルの検疫所から逃げ出したアフリカミツバチが、ヨーロッパミツバチと混血を繰り返しながら、増殖している恐れがあるとされている。

ウィルスの場合、常に寄生する細胞によっての変化や、抗生物質の投与によって突然変異・・・と言うより「ゆらぎ変異」を起こしやすい性質があるが、こうしたウィルスよりもう少し安定した生物である細菌は、比較的突然変異を起こしにくい・・・と思われていたが、例えば溶連菌・・・、これなどは喉頭痛などの原因にはなりやすいが、本来一般的にどこにでも存在する常在菌である・・・、しかし1985年、この溶連菌が突然キバを剥く、アメリカで若い男性が感染したのはこの溶連菌だったが、なんとこの溶連菌は1時間に2・5cmのスピードで人体の筋肉組織や脂肪組織を侵食していったのである。

生きながらにして体をバクテリアに食べられてしまうこの病原菌は、単なる溶連菌との区別がつかなかったが、A群溶連菌(溶血性連鎖球菌)感染症、劇症溶連菌感染症と名付けられ、欧米では既にこの時点でも数百人の感染者を出していて、その死亡率は実に感染者の70%と言うもので、日々バクテリアによって体を侵食される痛みは想像を絶するものだったと言われ、その挙句に腐食しながら死に至る恐ろしい感染症だった。
日本でも1993年には感染者が40名、その内死亡したものは30名・・・と言われた、全く治療方法も無く唯見守るしかなかったのだが、それ以降はなぜか世界的に感染者数が減っていくのである。

また同じくアフリカで突然発生した「エボラ出血熱」などは、全く感染ルートが分からず、1つの村で次から次、口や耳、目、生殖器などから大量の血を噴出し、村人が失血死していった。
WHO はこの村を隔離し、外部との接触を完全に封鎖したが、初期段階で感染が空気感染であることが分からなかった医療関係者十数名、救護活動に当たっていたシスター10名などが感染して死亡した。
この感染症でも感染者の実に80% 以上が死亡していて、村は全滅か・・・と思われたのだが、感染ルート、病原体、治療方法の一切が分からないまま、その後この感染症は消滅してしまった。
つまり突然始まって、何もしないまま感染は収まったのだが、未だに再発の可能性は否定できず、いつまた猛威を振るうか予測すらできないのである。

今、世界は鳥インフルエンザや動物性ウィルスを少し浅く考えている恐れが有る。
突然現れて、原因も分からぬまま気づけば消えていったH5N1を例に取るなら、人智で撲滅したのではなく、自然消滅した・・、なぜか「A群溶連性球菌」や「エボラ出血熱」のような、得体の知れない恐怖が拭い去れないのである。

T・asada
このブログの記事は「夏未夕 漆綾」第二席下地職人「浅田 正」 (表示名T・asada)が執筆しております。

2件のコメント

  1. ダーウィンの進化論は、概ね現実と有って居るようには見えるが、実は正の面を強調しすぎているようで、負の面も、同時に発生しているであろう。負が勝っているのは、その内部より改革することはとても困難で、外部的要因で不適が強調されて行き、存在に堪えられなくなり消滅・絶滅する可能性が高まるが、それは同時に、正の物にも甚大な影響を同時に齎す。
    毒と薬は、腐敗と発酵と同じであり、現象としては同じであるが、それから影響を受けるものにとっての区別で有り、本来的な区別とは異なる。
    男女の関係も似たような物であり、同じものの両面だが、忘れ去られている、今話題のLGBTも進化の賜物で有って、邪魔者ではない。進化は色んな試行をサイコロを転がすように起きるのであって、人生と同じで、有るべくように有る訳ではなく、有るがままに有るのであって、有る中で、いくらかの考えや、努力の効果は有るだろうけれど、一つだけ変化するわけでは無く、すべては連動・独立して変化して、未来は解らない。
    青春時代を回顧~悔悟して、冗談~真剣にやり直したい、と言う希望を持つものは勝手だが、余り拘泥しない方が良い、自分にとって悪い部分を改変だけ出来ると思い込むのは、大きな間違いで、それだけ変更できるわけもなく、多分、もっと酷い事が、起きることが多いだろうと自分は、やり直す気も全くないが、すべてはだれにとっても初めての事であり、それは最後の事でもある。
    誰も死んだ事は無く、死に方は余り(!)選べないだろうし、死に方が解らないと言ったって誰にも死は訪れる(笑い)。

    必ずしも肯ずるものではないが、細川ガラシャ(明智玉)の生き方は、一つの粋であろう、その辞世と言われる「散りぬべき 時知りてこそ 世の中の 花も花なれ 人も人なれ 」と蒲生氏郷の「かぎりあれば 吹ねど花は 散るものを 心みじかき 春の山風」を合わせ読むとき、それぞれ自分の人生を生きたのだろうと、或る種の感慨が湧く。

    猫ウィルスに耐性が有る種が多いように、エボラ出血熱にも、耐性のある人類が居るだろう、多分。

    1. ハシビロコウ様、有り難うございます。

      地震の時に鳥が逃げ出すのですが、でも完全にはいなくならない。
      7%は残っていて、彼らはそこで経験を獲得する。
      生物のシステムは流石に37億年と言う歳月をかけて出来て、しかも今も動いている為に人類くらいの英知では追いつかない。
      ウィルスは生物と非生物の中間であり、自分では繁殖も増殖も出来ない。丁度家を建てるときの材料が縛って置かれている状態に同じで、誰か他の生物がいないとこれが組み立てられない状態です。しかも面白いのはこれが進化な訳です。つまり自らが進んで独立して生きる力を放棄したのですが、その結果が地球で一番数が多く、あらゆる環境に即時適応する、最強の存在になった訳です。
      同様に蟻と蜂では蜂の方が空を飛べて強力ですが、環境適合能力と、総数では蜂は蟻に遠く及ばない。
      蟻は進化の過程で自ら羽を棄て、空を飛ぶ事を辞めた訳で、その結果が今の蟻の数と言えます。
      人間はとてもひ弱な生物で、生体自体はとても弱い。それゆえこれを社会が補って食物連鎖の頂点になっているのですが、この意味では社会と言うものも、とても生物学的、物理的、或いは自然の仕組みそのものと言えるのかも知れません。

      コメント、有り難うございました。

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