「オルレアンの聖少女・Ⅱ」

ジャンヌが生まれたのはフランス、ロレーヌ地方の片田舎、ドムレミー村と言うところだが、農民である父ジャック・ダルクと母イザベル・ロメの間には3人の男の子と2人の女の子が生まれ、ジャンヌが生まれたのは1412年1月6日のことだったらしく、この夫婦の一番下の子供だった。
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だがこの当時フランスはイングランドとの間で血で血を洗う戦争をしていた、いわゆる100年戦争の末期で、当時ジャンヌの住んでいた村でもイングランドと軍や、フランス国内でイングランド軍と共闘するブルゴーニュ派軍などによって、収奪や婦女子への暴行が後を絶たず、一説にはジャンヌの姉カトリーヌは、こうしたイングランド側の兵士によって殺された上に、何人もの男達からその体を冒涜され、この事件以降ジャンヌが天使達の啓示を聞くようになったとも言われている。
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1425年、13歳になったジャンヌは初めて森でその不思議な声を聞く・・・。
「ジャンヌ、ジャンヌ、良く聞きなさい。あなたはいつか大きな仕事をしなければなりません。そしてそれはとても辛い仕事です。でも神はあなたを選ばれた・・・、これは避けることはできないのですよ」
ジャンヌはどこからともなく聞こえてくるその声に始めは驚いた。
だがしかし、その声はどこかで優しく、大きな声ではないのだが、はっきりと聞こえ、何故かジャンヌの体をあたたかいもので包んでくれるような幸福感があった。
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やがてジャンヌは辛いことがあったり、ジャックとイザベルが口論になったりすると、1人でこの森に入るようになるが、こうして森に入ると、必ずその声はジャンヌに語りかけ、そして色んなことを教えてくれるようになって行った。
またジャンヌはそうした声の中に3人の存在を感じるようになり、その1人は大天使ミカエル、そしてこの地方の教会にも像が置かれている聖女カトリーヌ、またマルグリットがその都度ジャンヌに語りかけていることを知るようになる。
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ジャンヌにとっては貧しく辛い家での現実のなかにあって、次第に森での出来事が救いのようなものになっていくが、そうしたある日、1428年5月のことだった。
その声はおそらく聖女カトリーヌの声だったと思われるが、森の声はオルレアンを開放してフランスを救うため、ヴォークルールの守備隊長に会うようジャンヌに伝えると、この言葉を残し、以後何度ジャンヌが森に入っても声は聞こえなくなってしまった。
「ジャンヌ、時が来ました。お別れです。あなたが神との契約を果たさなければならないときが来ました。さあ、行きなさい、そしていかなるときも神を疑ってはなりませんよ・・・」
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こうして1428年、そばかすだらけのそれほど美人とは言えない、本当に村の娘でしかないジャンヌは神の啓示を携えて、ヴォークルールの守備隊長ロベール・ド・ボードリクールに面会を求めるが、何せ16歳の小娘、それもどこかで貴族とのつながりがある訳でもない彼女に、ボードリクールは苦笑いしたかと思うと、守衛に命じて追い返してしまう。
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ジャンヌは泣き虫な女の子だったが、その反対の時はまるで激情したように激しいところがあり、こうしてボードリクールに追い返されたときも、「私の話を聞け」と何度も門の前で大声を上げたと言われている。
そしてここで終われば、少し頭のおかしい女の子でその後ジャンヌは村娘として一生を終えたかもしれないが、ここで終わらなかったところを見ると、やはり歴史や神はどこかで彼女を選んだことは間違いなかったように私は思う。
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この話を聞いたフランスの前王シャルル6世の息子、シャルル7世は何を思ったか、ジャンヌ・ダルクという娘に会ってみたいと言い出すのである。
この背景は当時100年戦争を終わらせるために、イングランドのヘンリー5世と前フランス王シャルル6世の間で結ばれた、「トロワの条約」の隙間が存在していた。
つまりこの条約ではシャルル6世の娘と、ヘンリー5世が結婚して、そこで生まれたヘンリー6世がフランスとイングランドの王となり、事実上フランスは男子の系列からフランスの国土を継承できない仕組みとなっていたが、シャルル6世の死去と同時にこれは実行に移されることになっていた。
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しかしこの当時ヘンリー5世と、シャルル6世の娘キャサリンとの間にできた子供ヘンリー6世はまだ幼く、方やシャルル6世の息子シャルル7世はヘンリー5世の妃に近い年齢である。
事実上イングランドに併合される条約であった「トロワの条約」は、フランスの貴族からも反対が多く、またこの条約によって本来ならフランス国王となるべきシャルル7世は、フランス王になれない。
これを誰より口惜しく思っていたのが、シャルル7世の義母、ヨランド・ダラゴンである。
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それにまだ幼く、フランスを相続した証である王としての戴冠式が、ヘンリー6世はできていない。
つまりこの時期、フランスには王がいない状態となっていたこと、そこに神がフランスを救えと告げたジャンヌ・ダルクが現れるのであり、ここに起死回生の逆転を賭けたヨランドと、シャルル7世の必死の形相が垣間見える。
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こうした背景からついにジャンヌとシャルル7世の対面が実現するが、シャルル7世とてバカではない、本当に神から啓示を受けた者かどうか試そうと、彼はわざとみすぼらしい格好をして、多くの年齢の近い貴族にまぎれて、ジャンヌに自分を探させようとするが、ジャンヌは広間に入ったなり皆を一望すると、迷うことなく家来の格好をしたシャルル7世の下にかしずくのである。
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                                             「オルレアンの聖少女・Ⅲ」に続く。
T・asada
このブログの記事は「夏未夕 漆綾」第二席下地職人「浅田 正」 (表示名T・asada)が執筆しております。

2件のコメント

  1. 「9時37分のミステリー」

     昔、某宗教政党の党首が、当時の最大宗教権力者を「最大賛辞を以て」祝福しなかった、と言う理由で、党首を解任され、一族まで、詐欺やら偸盗の汚名を背負わされて、世間から消えたが、未だに公称信者数は、それなりで有るらしい。多分95%ぐらいの信者は、善良なのだろうけれど。
    翻って某〇旗と言う新聞を発行している政党は18年間も党大会で党首選も無く、同じ人物が党首をしているようだが、自民党の党首が党内規を変更して、4選をするかもしれないと言うと、次期有力候補が居ないのは人材が居ないからだと、言っているらしいのは、北の黒電話が、日本は厚かましい、とか言っているのと相同で面白い。

    何方も自分からみれば、新興宗教の中の、その宗教の国家や国民、社会に対する貢献利他行には目が行かず、綱領その他を声高に言う個人に帰依しているようで、絶対投票したくないのだが、一定の勢力を誇っているという事は、そういう事を心地いいと思う、一定の人々が社会に存在するという事だろうから、政治を執り行うものは、そういう人々も、十全に幸福に導く努力も怠ってはならないだろうから、荷が重いものだと思うけれど、大部分の政治家は、自党に投票する人々の福利のみを勘案しているようだが・・それはそれで競合して均衡が取れるのかも知れないが、危機や大変革時には脆いものだろうと思う。
    政治家は国民の鏡で、ロクデナシの政治家を見たら、自分の分身だと思うしかない。

    1. ハシビロコウさま、有り難うございます。

      この話は今も言い伝えられるミステリーなのですが、結局のところもう真相は解らないと思います。
      それらしく書いている人もいますが、果たしてどこまでが本当で、どれからが虚かは判別が出来ない。
      私はこの話をはるか昔の週刊誌で読んで書いていたのですが、その週刊誌の記事が既に怪しい、そう言うレベルだと言う事を忘れてはならないだろうと思います。

      コメント、有り難うございました。

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