第二章「暗闇の濃度」

1920年1月16日に施行されたアメリカ合衆国の「禁酒法」は、酒と女をセットで考えた敬虔なクリスチャンがそれを提唱して行ったものであり、バーで酒を飲み、そのバーが売春宿も兼ねていたケースが多く、こうした意味から売春を規制し、そうした事の温床となる「酒」もまた悪と看做す傾向が強まって行った結果現れてきたものなのである。
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しかし実際にこの法律が運用されると、どうなって行ったかと言うと、酒はその製造の殆どが地下でマフィアの関係者が扱う事になり、また価格も非合法なので、とても高価なものになって行ったが、それまで表にあった酒に関する経済が、全てこうして地下の闇組織の経済となって行ったのであり、ではこれで酒の消費が減ったかと言うと、実はニューヨークでも5万軒近い違法酒場が存在し、体を売る事でしか生活できない女たちからは、禁酒法に対する反対運動まで起こってくる。
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またこの禁酒法によって減少した税収は少なくとも5億ドル、そして禁酒法でアル・カポネなどのマフィアが得ていった利益は数百万ドルに達し、マフィアはこの資金を使って更に酒と女で稼いで行ったのであり、この時期に発生した事件や抗争は、その殆どが禁酒法がらみの犯罪だったとも言われているのである。
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正しいこと、正義だけを見て社会を考える事が社会を救う事にはならない、むしろそこに光を当てると言う事では、それを規制して無くそうと言う発想よりは、その現実を直視することがより大切な事なのである。
法的に日本にいるはずの無い人が日本にいる、ではこれを入ってこないようにする法を作ると、それでも違法に入ってくる人は更なる闇に押し込まれる。
重大なことは何か、いるはずの無い人がいたら、それを無視するのではなく、法はそうした場合のことを考えておかなければ法とはなり得ないのである。
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オランダの社会には売春をしている女性に対する健康診断の受診が、業者に義務付けられているし、アメリカでも16歳以下の女性の妊娠には、専門のカウンセリング機関を設置している。
つまりここでは13歳で妊娠した場合、どうすれば良いかを関係者から意見を聞いて、解決していく仕組みがとられているのである。
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確か、やはり1980年代だったと思うが、NHKが日本の「小学生と中学生の異性との付き合い」と言うテーマで、生放送の電話相談を受け付ける番組を企画した事があったが、ここに寄せられた相談の大半が、女子生徒の異性間の性交渉についての相談と、中には小学生女子児童の妊娠の相談までもが数件含まれていて、こうした相談を受けた指導員が、全く対処不能になり、番組途中で相談受付を終了してしまったことがあったが、こうしたありようが日本の現状である。
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法的に存在し得ないものは実態として存在しないと思うのは大きな間違いであり、ここで規制を厳しくした場合、本当に困っている者は、完全に地下にもぐるしかその方法を無くしていく。
そしてこうしたことを考えたとき、今私が最も危惧しているのは「貸金業法改正」である。
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この改正法案は、健全な者のためには確かに役に立つだろう。
しかしもともと貸し金業者からお金を借りよう、クレジットで何とかしようと言う人が実際は貸金業者から金を借りているのであって、ここではむしろ銀行から融資を受けられる人は初めから少ないのである。
また現在のカード時代を反映して、クレジットカードの流通は膨大なものに及んでいるが、このうち10%近くのカード利用者が、既に破綻寸前になっていると言われている。
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つまりカードを持つ人の10人に1人は、次からカードが使えなくなるばかりか、キャッシングが利用できなくなり、更には年収の30%を超えての融資が出来なくなることから、サラ金からも金を借りる事が出来なくなって行くのであり、主婦も改正法以後は夫の収入証明や、世帯主の許可が無ければ金が借りられない事になる為、ここでも苦しい中をやりくりしてきた者ほど、次の融資は受けられず、破綻していくことになる。
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消費者保護のためのこの法案は、ある種の「禁酒法」であり、言わば光と闇で言えば、そのグレーゾーンで暮らしている者を、完全に闇に落とす法案であるように私は思う。
日本の企業の90%を占める中小企業の経営は本当に苦しい。
従って銀行から融資を受けられる企業など中小企業全体の20%にも及ばず、その殆どがノンバンクやサラ金などの融資を組み合わせながら使って、綱渡りの経営をしているのが現状だろう。
そこで経営的に健全な大企業や、一部優良な中小企業をモデルスケールにして、「これが正しい金融だ」とやった場合、その他の頑張れば何とかなるくらいまで来ている中小企業まで、闇の世界へ蹴落とす事になる。
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こうした企業経営の健全化法案はどちらかと言えば、景気の良いときにやらねばならない法改正であり、消費税の増税と共に時期を間違えると、未来永劫闇の世界の広がる恐れのあるものであり、尚かつ、これまでサラ金業者がその経済的支配者の地位にあった金融までもが、こうした金融法案改正によって、日本の地下組織の経済となって行く事を危惧しなければならなくなるのである。
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即ち、銀行もサラ金もカードもだめなら、「ヤミ金融」しかなくなるのであり、この機会をチャンスとする地下組織の闇金融が拡大し、ここにグレーゾーンで暮らしていた人は完全に闇に堕ちるか、それで無ければ破綻するしかなく、少なくとも日本の人口の10%以上は、そのボーダーラインに追い詰められているはずである。
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健全な者と言うのはそうではない者の苦しみは分らない。
税金から安定した歳費を貰っている代議士、またやはり税金から他のどんな支出よりも先に給与が貰える公務員が考える法案は、実に健全なものである。
倒産寸前の企業やリストラされた家族の苦しみなどは全く理解する事も無く、困った人たちのための法案を作るが、その根底にあるものは、13歳の女の子は妊娠してはいけないものだから、絶対妊娠はしないものだと思っているのと同じ事であり、してその結果は最も助けなければならない者を闇に突き落とし、無残な最期をむかえさせ、そして「可愛そうに」などと呟くだけである。
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人の営みは白か黒、それがはっきりしている者は少ない、多くの人は白と黒のその濃淡の中で暮らしているものである・・・。
※ 本文は2012年、yahooブログに掲載したものを再掲載しています。
T・asada
このブログの記事は「夏未夕 漆綾」第二席下地職人「浅田 正」 (表示名T・asada)が執筆しております。

3件のコメント

  1. 「不如無知」1・2

    呂蒙正の逆の行動の人は、現今、我が国会には、それこそ掃いて捨てるほどいて、村田蓮〇~辻本清〇~エダノン~タマキン~緑の狸、枯れ木も山の賑わいだけれど、マツノザイセンチュウで全山これ枯れ木一歩手前、そこに全体主義者やら、実行する気が全くないので、バラ色の公約を掲げて選挙民を誑かそうとする輩と、誑かされたい輩が大勢いて、地味な連中は、自分が間違っているような錯覚に陥る~~♪

    又一方、経済界を見れば、餓鬼だらけで~~孫正〇~三木〇~ゾゾ~GAFA~有名ブランドの総帥~中国関係の財界人、そりゃないだろうの宗教の教主様まで~~♪
    東日本大震災は、大変不幸な震災で、亡くなった方々やその他被災した方々には言葉も無いが、その日のうちに、命を賭けて重機で道を車が走れるようにした人々や、食料や燃料を積んで、被災地に向かった人々も多かった。

    人は、友達の不幸や死に際して、真実が現れ、社会や国家の危機に、真価が問われる~~♪

    自分は・・
    期待される状況より、多分、1~2段下の服装~疏食+水。
    きっと、近づきたくない人多し~~♪

  2. 「環境性決定」

    マーフィーの法則に有るように、日常では、良い事は忘れ去られるからか(笑い)、不幸な事の方が発生頻度は高いやに思われる。幻想~妄想に引かれて、ハインリッヒの法則を感じない人も、多くなってきているようで、事故は、社会がアナログからデジタルと言うべきか、機械式から電子式にも推移して、以前は考えにくかった事故も今後は増えそうだ。

    動物の雌雄の割合は、理屈の名前は忘れたが、オスメスの発生の割合が、近づいてゆく方向に作用するらしいが、カメなどでは無受精卵でも発生が完結するするのも有るらしいが、産卵場所の温度によって、オスメスが決定されることも有るようだ、それでも、彼らが、生き残って(滅びていない)進化してきたという事は、過去には幾多の温暖化や寒冷化が有っただろうに、オスメスが或る要因で、多分食物や生息環境も絡んで、それなりの割合を保つ機構が作用したのだろう。
    色々なものは、対立概念ばかりではなく、例えば、ミツバチの女王アリ、メスだが産卵しない働きバチ、生殖の時に一匹だけ必要だが多数発生するオス、メスでもアリでは、巣の維持の為の労働をしないで、産卵だけする、ただ乗り集団、など複雑な社会を構成しているものも多い、人にあるような、サイコパスや悪さの、勿論良い事も含めて各種類型は、知能が、作り出しているだけでは無い様だ。生物の長年の履歴から発生したものも多い気もするが、化石には残りにくく、とても頭脳からだけでは、解明できないほど、複雑な過程があるのかも知れない。

  3. 「ガラスの金継ぎ」

    深遠な職人の世界で、素人にも、その工程が垣間見えるが、実際は、傍で長年見習って初めてその手法が少しは受け継がれるであろうし、向きの悪いものには、手続きは、他者より見て類似しているであろうけれど、完成度は、多分それほど高いものとは思えない。

    他人がやている事は、容易に見えて、自分の遣っていることは高等に見えるが(笑い)が、今進行中の、参議院議員選挙を見ていると、実際担当した事がない、口だけ政治家が、ご立派な事を、確信的自信を持って、訴えていて、万が一、実際に担当したら、本人評価、高得点だろうけれど、実はその逆で似て非なるが如し~~♪

    昔、某国で、別の国の料理を数人で食べに行ったことが有るが、料理が2~3品出て来て、全員で逃げ出してきたことが有るが、国からは逃げられないし、脱げてはいかん~~♪

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