「豊作飢饉」

農業を本質的に崩壊へと導くものは「凶作」よりはむしろ「豊作」であり、古来より為政者によってその「経営」は為政者の許容範囲内でしか個人に付託されていない日本の農業は、基本的には「経営」的裁量に置いての自由がなく、これは現在においても伝統的に同じ意識慣習がある。
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昭和5年(1930年)は豊作の年だったが、同年10月2日に発表された第1回米収穫予想量は6687万石(9550万トン)、つまりこの以前5年間の平均米収穫量と比べて、12・5%増の大幅豊作が予想された。
その結果既に翌日から米の価格は下落を始め、昭和5年の段階で、米一石(米2俵半)を生産する為に要する費用が27円だったにも拘らず、同年10月3日には一石の価格が16円代半ばまで落ち込み、10月10日には米一俵が5円(一石あたり12円50銭)と言う大幅な下落となっていったのである。
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これはどう言うことかと言うと、生産する為に使われた費用が27円だったものに対し、その価格は12円50銭にしかならなかった、つまり米を作った農家は27000円かけて米を作って、その収入は12500円だったと言うことであり、このことがもたらしたものは農村地域始まって以来の一大豊作飢饉だったのである。
借りた金の3分の1しか収入がなかったと言うことであり、では残りの借金をどう処理するかと言えば、更なる借金かそれで無ければ娘を売って金に代えるしかない。
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またこの1930年は、前年の1929年に始まった世界恐慌の影響受け、日本経済が壊滅的な打撃を受けていた時期でもあり、農村地域は疲弊した上に、更に都市部で恐慌によって犠牲となった者たちも引き受けなければならなくなる。
都市部から失業した次男、三男、また娘が生活できなくなって帰ってくる。
そして流石に実家に帰ってくる訳だから、何とかご飯だけは食べられる。
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政府や資本家はこのことを利用して、事実上の失業対策を農村、農民に押し付け、自らは何等の手立ても講じようとしなかった。
内務大臣「安達謙蔵」(あだち・けんぞう)などは、失業して農村に帰り、父母の元で家業の手伝いをしている者は失業者と看做さず、「東洋流の家族制度のおかげで日本には失業がない」とか、「失業手当などやると、遊民惰民を生じさせるから、そうした弊害を極力防ごうと考えている」などと言うたわけたことを述べている。
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だがこの時期農家の生活は苦しく、借金は雪だるま式に増え、昭和5年、日本の農業者人口全体の負債総額は40億円、農家一戸当たりの借金は7、800円(現在の貨幣価値に換算すると500万円前後)にまで膨らみ、地主や富農などは銀行や信用組合などから借金することも出来たが、一般農民は「頼母子講」(たのもしこう)や「無尽講」などの農民同士の互助組織によって金利だけでも金策したり、地主や肥料商人、米の仲買人などから高利で借金をするしかなかった。
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また田の収獲を見越して、それを先売りして金を受け取る「青田売り」、養蚕農家が春にとれるカイコを当てにして、冬の内に代金を前借する「寒ガイコ」なども行われたが、この実情は、実際秋に収獲した米や、春に出来た繭を売るときの半金にも満たない金額での買い叩きだった。
そして借金で首が回らなくなると、挙句の果てには娘の身売りであり、娘達は肉欲の市場へと売られていったのであり、こうした実情すらも心無い者達にとっては「東洋流の家族制度のおかげ」となってしまっていたのである。
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こうして豊作で困窮し、離農する者、土地を手放さなければならなくなった者が続出したところで起こって来るものは、翌年の凶作であり、ここで起こって来る飢饉は容赦なく借金まみれの農民達を叩き潰すことになっていくのである。
この昭和5年近辺は世界情勢も波乱だったが、それに連動するかのように、日本の農業はまるで大嵐に襲われたかの様相を呈していた。
昭和5年豊作飢饉、昭和6年、7年凶作、昭和8年はまた大豊作飢饉、翌年の昭和9年は大凶作と乱高下を続ける日本農業は、この時期に確実に体力を失い、小作地の奪い合いとなり、その結果小作農は増加しているのに、全耕作地に対する小作地の割合が減少すると言う事態を招いているのである。
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さてそして現代を見てみようか・・・。
デフレが起こる原因は大まかに3つある。
それは先に出てきた豊作飢饉のように、従来安定した市場があっても、それに対して供給が過剰になった場合、この場合は実際には計画や調整によって回避できる可能性がある。
また市場経済に通貨や紙幣の総量が少ない時、この場合も通貨に対して生産物や品物が相対して多くなってしまうので、品物より通貨を求める傾向が強まり、結果として通貨に対して品物が過剰になり、デフレが起こる。
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そして最後に、これは意外と見逃されやすいことなのであるが、国家が衰退してきた場合、その人口が減少してくる場合にも、それまでと同じ経済対策をしていると、実は人口が減少した分だけ、人口動態が高齢化した分だけ消費は落ちていくのであり、これもデフレとなるが、これに気付かずに内需拡大政策、安定した経済成長などと言っていると、デフレは加速し、その批難をかわすために金をばら撒く社会が発生した時は、その先に破綻がある。
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またデフレはすべての分野に渡って発生し、これは物品だけに留まらない。
物品の需要が落ちていくのだから、それに伴って「人」の需要も落ちて行き、娯楽や観光などの需要も落ちていく。
つまりは雇用状態も悪化し、賃金も下がっていくのが正しいあり方で、これを無視して保護しようとすると、そこから理想と現実のパラドックスが発生していくことになり、現在すべての地方が経済活性化の方策として掲げている「観光」は、事実上これから手を引いて行かないと、レッドオーシャン、つまりは競争の激しい分野での更なる競争に突入し、その需要は毎年下がっていく市場での価格競争になっていく可能性が高い。
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そして最後に、こうした時期に国の借金が900兆円を超えたなどと発表する財務省、そしてそれに呼応するかのように出てくる自民党の消費税15%の議論、如何なものだろうか、900兆円も借金を作ったのは財務省が無能だったからではないのか、そう言われたくなければこうした実態を隠すだろうが、それすらもしなくて良いほど、日本国民は物分りが良いと思っているのだろうか。
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そんなに借金があるならまず国会議員を半分にするか、歳費を半分にするかして、公務員も同じ様に半分にするべきだろう。
消費税より先にそうした議論が出てくるのが正しいあり方と言うものであり、これを飛ばして消費税の話をする者は基本的に政府の「犬」、いやこれでは犬に対して失礼だった、犬の諸君、お許しあれ・・・。
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財務省がぬけぬけと「国の借金が900兆円です」と言うのは、ある種売られていく娘を横目に、「東洋流家族制度のおかげ・・・」と舌を出していた大たわけと変わらぬことなのである・・・。
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本文は2010年8月11日、yahoo ブログに掲載した記事を再掲載しています。
T・asada
このブログの記事は「夏未夕 漆綾」第二席下地職人「浅田 正」 (表示名T・asada)が執筆しております。

2件のコメント

  1. 史上最低のアホ外務大臣は内田康哉で甲乙つけがたいのは、田中真紀子で、これと並び称されるのが、内務大臣の安達謙蔵、但し誰でも一つぐらいは取柄が有って、選挙は上手かったらしい、多分、演説が巧みだった、中身は兎も角~~♪

    こんな背理は、頻発するが、実際に行った事が無い、理論家は、机上の空論が崩れ去っても現実を認めず、民主党政権の様に見苦しい責任転嫁が得意、なんせ理論家だから~~♪

    東南アジアの某国は、元首相一家が居た国だが、農業の振興策として、実際は選挙の票を買っただけだが、補助金を出して米を買い集め、実情に合わない法定最低賃金を上げて、国内を混乱させて、現在は逃亡して世界観光旅行(笑い)をしているらしい。農家の余剰米は売れなくなって、最大米輸出国から転落したが、自給自足的~共助共同体は、未だ崩壊せず、貧乏なりに階級化からも取り残されていながら、それなりに呑気に生きているらしい。難しい病気では治療費も出ないので、サッサと死ぬしかないが、ベッドで横たわっているよりはよっぽど幸せなのかもしれない~~♪

    政治家も痴呆(?) 議会の議員も職業化していることが根本的問題であろう、我が市にも24名の議員が居て、議員報酬は平均800万円程度であり、この世の春を寿いでいるが、それを容認している国民~市民も同罪で有る。
    我が市なら議員は5名、市議会は夜間開催、報酬は年間250万円、年金受給者なら、減額されない範囲以内で給与、強酸党の様に30歳ぐらいで、実務経験が無く、市議会での質問の最期が、○○で憲法違反だから、反対、と言うカスは要らない~~♪

    1. ハシビロコウ様、有り難うございます。

      この文章の意味するところは、実は人類が滅ぶのは戦争ではなくて、平和で豊かな時だろうと言う事です。
      私は少年の頃、戦争で人類が滅ぶと思っていましたが、地球上から戦争が無くなった時は一瞬も無く、この日本を見ていると平和こそが人々を傲慢にし、怠惰を正当化して優しさに隠れて溶けて行く、これを滅亡と呼ぶのだと言う事を学びました。
      滅亡とは人がいなくなる事ではなく、馬鹿な者が蔓延して希望が無くなる事を指すのだろうと言う事も、リアルタイムで勉強させて頂いた気がします。
      さくらを見る会で少し自分の親が疑惑をもたれたら、侮辱していると声高に言う元アイドル、たまさか少し美形だったから国会議員になっただけの事、それをあたかも自分が偉くなっていると勘違いし、侮辱とは片腹痛い。
      こんな者を選んだ国民が悪いが、安倍総理の平気で嘘つきも然ることながら、こんな者に拠って国民の希望は失われる。
      昔から政治家は馬と鹿が多かったが、時代と共にその程度の悪さは加速が付いてきている。
      日本の滅亡は近い・・・(笑)

      コメント、有り難うございました。

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