「うかつな言葉」・Ⅰ

「1万ドル」

「受けよう、では私は5万ドルだ」

「良かろう、では私はそれにもう5万ドル足して10万ドルにしようか」

「そうか、じゃは私は面倒だから100万ドルで行こうか・・・」

「100万ドル」、この言葉を聞いた片方の男は、一瞬にして顔色が変わった。

そして次の瞬間、「私は降りる」と力尽きたように肩を落とし、カードをテーブルの上に投げ出した。

「ストレートフラッシュか、いい手だな」

相手の男が降りてくれたおかげでこの賭けに勝った男はそう言うと、今度は自分のカードを静かにテーブルの上に並べる・・・。

「フルハウスだったのか・・・」

負けた男は更にガックリしたが無理もない、カードの勝負では負けた男の方が勝っていたのだった。

およそ賭け事でも経済でも、そして外交でも戦争でもそうだが、常に「より多く持っている者」が最後には絶対勝つ。

賭け事や経済では少しでも相手より資本を持っている者、そして戦争ではより多くの兵隊がいて装備を持っている国、外交では一つでも多くの策を講じている国が、最後には勝利を収める事になる。

2009年3月、当時の防衛大臣「浜田靖一」氏が中国の「梁光烈」防衛相と会談したおり、「梁光烈」氏は浜田防衛大臣にこう言う話をしていた。

「現在大国と呼ばれる国で空母を持っていないのは中国だけだ。中国としては未来永劫空母を持たないままと言うわけにも行かない・・・」

この言葉はある意味中国が、正式に空母建設を国際社会に公言したとも言える瞬間なのだが、実は中国の空母建設はこれから遡る事3年前、2006年頃から始まっていて、こうした時期に中国軍幹部の口から、空母建設を検討していると言う発言が聞こえはじめていた。

中国軍の内部文書に「特殊大型軍用船舶」と言う文字が現れてくるのもこの頃からだが、2007年8月には空母建設のための専門組織「048弁公室」が設置されたとも伝えられていた。

そして2010年8月16日、アメリカ国防総省が発表した、中国の軍事動向に関する報告書では、中国の空母建設が2010年以内にも始まると警告しているが、中国の軍事動向に詳しい専門家が入手した衛星写真には、上海市の揚子江河口に存在する空母建設施設、「江南造船所」敷地内に最近建設されたと見られる新しいビルが10棟程確認できる。

これらの施設はあくまでも推測の域を出ないが、「専家楼」(専門家の建物)と名づけられていることから、ウクライナから迎えた、空母建設に必要な技術者の宿泊施設ではないかと見られていて、その規模はおよそ100人が収用可能だとされている。

またこうした技術者が何故ウクライナから呼ばれているのかと言えばこれには理由がある。

もともと中国には短い滑走路から飛び立つことの出来る戦闘機がなく、この意味から空母などに搭載する艦船搭載機の技術がなかったのだが、今年に入って中国が短い滑走路から飛び立つことの出来る「殲15」と言う、いわば艦船搭載が可能な戦闘機を開発したことが判明、しかしこれはどこから見てもロシアの戦闘機にそっくりだったため、「盗用」だとしてロシアのメドベージェフはおろか、プーチンまでが激怒し、このことからロシアからの中国に対する武器売却交渉は止まったままになった。

こうした経緯から空母建設にロシアの協力が得られなくなった中国は、仕方なくウクライナの技術者に目をつけたのだが、このウクライナも3ヶ月ほど前には、同国の技術者数人が中国の空母建設に関わったとして、また技術を漏洩したとしてその身柄を拘束していることから、実際は中国の空母建設は遅れている可能性も否定できない。

ただ、ウクライナのこうした姿勢は「欧州・大西洋パートナーシップ理事会」加盟国としての立場なのか、またロシアの要請によるものなのかは分からないが、いずれにしても中国の空母建設上、もしネックがあるとしたら、こうした技術者確保が最も大きな問題になっているに違いない。

またこれ以外に遼寧省や湖北省には空母の形に良く似た飛行場や、空母のような建物が建設されているが、これによって中国は実際に空母から戦闘機が飛び立つ訓練をしていると見られ、空母状の建物では空母運行のシュミレーションや、無線訓練などが行われている可能性が高い。

そして何故中国がこうも空母建設に拘るのかと言うと、そこが冒頭の「より多く持っている者が勝つ」の原理である。

現状世界で一番軍事作戦行動範囲が広いのはアメリカだが、これに「NATO」(北大西洋条約機構)が続き、そして中国が続く。

だがよくよく考えてみれば、NATO軍の敵とはどこだろう。

欧州の殆どの国が加盟し、ロシアまでが加盟している現実、またソビエトから独立した国々はこの下部組織の「欧州・大西洋パートナーシップ理事会」に加盟しているし、どこに軍事的な脅威が存在するのだろうか。

こうした経緯からNATOは既に軍事同盟としての役割を事実上終えているのだが、これが中国にとって見れば、どこかで自国を敵国として想定してるのではないか、またNATOとアメリカ相手ではいざ戦争しても勝ち目がないとしたら、もし何かの重要な交渉時には、その軍事的な力がある限り、中国はどこかで譲歩せざるを得ない事態が訪れる。

この恐れから中国は軍事力に力を入れざるを得ないのだが、いかんせん軍事作戦展開能力は到底アメリカには届かない。

そこで作戦能力の拡大をはかるためには空母の建設は不可欠であり、実際にこの近年は太平洋にまで非公式に出没して、こうした空母建設の為のノウハウを試験しているのであり、また日本とアメリカの関係悪化に対して更に深い楔を打ち込むために、日本領海付近を伺っているのである。

「うかつな言葉」Ⅱに続く

 

米 本文は2010年9月24日、Yahooブログに掲載した記事を再掲載しています。

 

T・asada
このブログの記事は「夏未夕 漆綾」第二席下地職人「浅田 正」 (表示名T・asada)が執筆しております。