「疫病神」

「ちょっとあなた、あんまりじゃない、絶対許せないわよね」

「そうよ、そうよ、あの人は自己顕示欲の塊なのよ、自分さえ目立てばいいんだから、ホントやんなっちゃうわよね」

「ねえ坂本さん、そう思わない」

「はあ・・・」

「何、気のない返事してるのよ、絶対許せないわ、こうなったら徹底抗戦よ!」

結構な勢いになってきたが、ここはとあるマンションの一室、集まった京葉小学校(仮名)PTA父兄の一部、と言ってもこんな昼間から人の家に集まっていられるのだから、みんな結構優雅な家庭の主婦ばかりだが、5人して何を盛り上がっているのかと言えば、現在のPTA会長「松下洋輔」(仮名)とその妻「松下菜穂子」(仮名・38歳)に対する悪口で盛り上がっていたのだった。

元々この小学校はこの地方の財閥がその創設者となっていたことから、どこかで格式があり、それゆえ田舎臭い地域行事に対して児童や父兄の参加は消極的だったのだが、これを一変させ地域行事に児童や父兄を駆り出すようにして行ったのは、現PTA会長の松下洋輔(40歳)だった。

彼はその強引とも言える押しの強さでPTA会長に立候補したかと思うと、地域のお年寄りクラブや、行政の行事に積極的に児童や父兄を参加させるよう提案し、これがまた年寄りや行政から大きな支持を得たのだが、そのせいもあってか子供が卒業してもPTAには残って権勢を振るい、やがては市議に立候補するのではないかと噂されていた。

PTAと言う組織は意外に認識されていないかも知れないが、公共権力が干渉できない、所謂「任意団体」でしかないが、一般にこのことを知らない父兄は多く、学校から言われれば絶対入らなければならないと思われがちで、しかもPTAは実際に子供がいなくても、その協賛者であれば入会資格もあり、また役員にもなれる。

それゆえ本来PTAの入会は拒否する権利もあり、またここに出てきた「松下洋輔」のように該当児童が卒業してしまって、学校へ子供が通っていなくても、その父兄がPTA会長になっていると言う事態もあり得るのだ。

だがちょっと聞いた感じは、児童やその父兄が地域行事に参加することは大変喜ばしいことのように思うかも知れないが、所詮行政やお年寄りの「子供はこうでなくてはならない」と言う勝手な思い込みから始まっている行事への参加は、基本的には子供や父兄を行事の人足として、また断らないボランティアや、行政や老人達自らが動かずとも、自分達が名目となった地域活動とすることができると言う美味しい部分もあって、その為実際こうした行事に駆り出される父兄や児童からは、特に夫婦共働き家庭に措いては、声に出せない不満となっている事も確かで、こうした不満、そしてまるで学校のことは全て自分達が仕切っているかのような松下夫婦の在り様には、相当な憤りがこの京葉小学校PTA内部に充満していた。

中でも決定的だったのは、皇太子夫妻がこの地域を訪れる事になった折、その車列が同地域を通過する時間の情報を、行政との関係の良さから手に入れた松下夫婦は、それを同じPTA内部の仲の良かった者だけに教え、自分達だけがその車列を見に行き、他には教えず情報を独占したことが発覚した時から、この夫婦に対する京葉小学校PTA父兄の不満は一挙に高まって行ったのであり、このマンションの一室に集まった4人は、かつて新聞社に勤めていたこともある「坂本加奈」(仮名・35歳)のその文章力を買って、彼女を呼び出し、松下夫婦に対する非難文書を作成して貰って父兄に配ろうと彼女を脅して、もとい、説得してたのである。

「ねえ、坂本さん、私達の気持ちって、当然のことだと思わない」

「「こんなことが許されて言い訳はないわよね」

このグループの首謀者格の「佐伯美香」(仮名・37歳)は、目に少し涙を浮かべて「坂本加奈」を説得する。

元々気弱な「坂本加奈」は周囲をヤンママ風の目つき鋭い主婦達に囲まれ、言葉が出ない。

そしてその結果、数日後ついに松下夫婦を糾弾する文書作成が始まり、それまではどちらかといえば影の薄かった「坂本加奈」は一躍脚光を浴び始め、毎日のようにどこかでみんなして集まってお茶を飲み、菓子をほおばりながらの文書編集作業が始まった。

やがてそれは松下夫婦のゴシップにまで及ぶものとなったが、それは流石に坂本加奈も拒否し、純粋に問題点や法的なことが書かれた文書がついに完成、プリンターからフェードアウトされた文書を「佐伯美香」が大量にコピーし、さていよいよ明日はこれを配ろうとしていたその前日の夜、何故か急に坂本加奈の所へ「佐伯美香」から電話がかかってくる。

「坂本さん、ごめんね、さっき松下夫婦が来てね、今までのことは悪かったって散々謝るのよ」

「それでね、今回こうしたことの責任を取って松下さんPTA会長も辞めるって言うのよ」

「ま、それで他の人たちもそこまで言うならって事になってね、そこでなんだけど、今回の話は中止にしようと思うのよ」

「えっ、そんな・・・、あんなに涙流して私に頼んでたのにですか・・・」

「本当にごめんなさいね、あなたには後でそれなりのお礼もするわよ・・・ガチャ」

呆然とする「坂本加奈」、しかしそれ以後もっと凄いことが彼女の周辺で始まる。

何とかねてから噂されていた松下洋輔が、ついに来年の市議会議員選挙に出馬することが決まり、それでPTA会長も辞めたが、その代わり次のPTA会長は、反対派の主導格だった「佐伯美香」の旦那が就任することに内定し、また「佐伯美香」自身は副会長になったのである。

更には「佐伯美香」と一緒に活動していたほかの3人もみんな理事に加えられ、結局今回の叛乱劇は「坂本加奈」が影から仕切っていたと言うことで、妥協がはかられ松下夫婦と「佐伯美香」グループとの和睦が成立した。

佐伯美香は地元老人クラブや行政からの圧力もあったことから、主人がPTA会長になることを条件に松下夫婦の傘下に加わり、この見返りに市議選には松下洋輔を応援する契約が成立、叛乱の責任は全体的に影響の少ない「坂本加奈」に取らせるのが良いだろうと言うことになっていたのである。

そして数日後、佐伯美香は他の3人のメンバーと共にファミリーレストランでハンバーグにナイフをさしこみながら、こう言う。

「あんた達、これからは坂本さんに会ってはだめよ。あの人に会ってるとこなんか見つかったら、また叛乱起こすと思われるかも知れないからね」

「そうね、彼女、今では疫病神ってところかしら・・・かわいそう、ふふっ」

「仕方ないわよ、私達が悪い訳じゃないわ・・・」

メンバーの1人の言葉に寂しい笑顔を見せる「佐伯美香」だった・・・。

さてと・・・、ひどい話だが、この話は勿論フィクションであり登場人物も団体も全て架空のものだが、政治の話をさせて頂いたことはご理解頂けただろうか・・・。

そうこれは民主党と沖縄の話である。

民主党はついに国会議員の沖縄行きを制限し始めているのだが、かつて自身が助けを乞うた者を裏切って疫病神のように扱う者は、必ずいつかは石以て追われることになるだろうことを、また必ず大衆はそれを望むだろうことを憶えておくが良い・・・。

※ 本文は2010年11月2日、Yahooブログに掲載した記事を再掲載しています。

 

T・asada
このブログの記事は「夏未夕 漆綾」第二席下地職人「浅田 正」 (表示名T・asada)が執筆しております。

6件のコメント

  1. 「疫病神」

    日本の禍神は、諸般の事情で、落ちこぼれた~落ちこぼされた(笑い)神で、福の神などの「善神」と元を質せば同根。

    こう言う話は、多いようにも思うが、多分、自分の利益の為に、裏切るのは、そんなに責める気もしないが、そう言う利害に関係なく、何かの「主張」で「正義」を行おうとする人は、間違いやすく、さらに危険な事が多いのも、常に考えて居た方が良い。

    最近、北朝鮮による「拉致被害者」の象徴的な方が老齢の為に亡くなったが、その係累の方が、取り戻せなかった「根本原因」は、土井たか子を筆頭とする、「社会党」及びその残党が、「拉致」そのものを認めなかったことで有ると、言ったらしいし、努力した与党には感謝の言葉を述べた、様だが・・「社会党」の連中は、知らぬふりを決め込み、今後も、与党を責めるのだろうが、それに加担する「マスコミ」も共同正犯。
    世の中は、口だけで成立しているわけではない。彼らが「閻魔様」の前に立った時、何と言い訳するつもりだろう。

    1. ハシビロコウさま、有り難うございます。

      民主党は本当にひどかったですね・・・。
      鳩山、菅、ドジョウとあらゆる罵倒する形容詞を付けてもまだ足りない程、ひどい人たちが政権を握り、為に未来に出てくる野党全体の信頼まで失墜させてしまった。
      国民新党の細川で懲りたはずなのに、それでも我慢しきれない程自民党が周落し、よしもう一度だけと信じた民主党は、まるで学芸会の出し物だった。
      もう二度と再び日本人は野党と言う名称が付けば、信じる事は出来ないでしょう。
      それを良い事にやりたい放題の安倍政権も、そろそろ日暮れを迎えている。
      この安倍総理は民主党並みにひどかったのですが、与党と言う響きだけで救われていた。
      アベノミクスと言う詐欺で民衆から富を吸い上げ、貧富の差を大きくして混乱を招き、更には未だにマスク2枚が私の所に届いていない。
      一体この政府の何を信じれば良いでしょうね・・・。
      こんな者が次に何を言っても、誰も信じる事が出来ない。国民は第二政府を構築する事を考えた方が良いのかも知れませんね。

      コメント、有り難うございました。

  2. 「おじにん」

    言葉の消長は仕方が無い。新しい意味が加わって方言として「濃厚接触」が特別な意味を持つことも有るし(笑い)、一旦失われた言葉が、社会に中に類似の状況が、時代を越えて、そのままではないが、復活することも有ろうかと思う。
    日本語は、主に漢語~和語~外来語~それらからの造語など有り又、表記も、漢字~ひらがな~カタカナが有って、最近は各種絵文字まで加わって、外来語でさえも、可なり忠実に再現~表現が出来る、世界でも可なり稀有な言語体系と文字体系を保持していると思われる。

    少しだけ、中高等学校で、覚えた「古語」の知識が有れば、1,000年以上前の文章や、和歌を読んで、鑑賞が出来る。

    とはいうものの、教育内容の問題や、通信機器の発達で、古典を読んだ事が無いと言うのは、普通だろうが(笑い)、当用漢字さえも読めない、文章は30文字以内しか読めない、理解できない、と言う人々が大増殖して、勿論その子弟はそれ以下で有り、文字文化言語などが継承されなくて、金融資産などだけが継承されて、バ〇だけの国家に成りつつある、近隣の国を、大いに凌駕しそう~~♪

    1. ハシビロコウさま、有り難うございます。

      先に出て来た「ふくべに遭う」もそうなのですが、実に面白い言葉ですね。
      それにとても範囲が広くて、歴史的な背景が血肉に形を変えて存在していたようなところが有る。
      言葉で解説ができる言葉などたかが知れていて、何も面白くない。
      理解するのではなく、感じる事の出来る言葉が少なくなりました。
      唯、こうした傾向は昔から有ったのでしょうね。
      知性派の紫式部が農村を旅した折、農民が後ろ向きに手を挙げたり、腰をかがめたりしている光景を目にする。
      日本屈指の知識人である彼女は、とても珍しい踊りを見たと書き記しているのですが、田植えでした。
      国内屈指の知識が知らずに、最下層の農民にとっては当たり前の事な訳です。
      私の残すものは和歌のような高尚なものとはならないかも知れません。
      ただ、最底辺の人間が当たり前としていて、誰も知らない言葉こそを残したい、そう言う気がします。

      コメント、有り難うございました。

  3. 「事象の地平線を超えて」

    「特別」が有っても良い。パラレル宇宙とかも。単純な科学実験は、環境条件をある程度の同一性を持たせることが出来て、再現性の実験が出来るかもしれないが、社会やその中に住む人の環境は常に変転・流動する。但し、もしを研究するのは、良い事かも知れない。

    ボッコちゃんの中に、外見が地球人とほぼ一緒で、摂食と排泄が逆、と言うのが有った気がしたが・・

    キンメダイは、今方々で、ご当地ものになっているらしいが、初めは、伊豆半島のどっかの延縄が(刺し網だったかもしれない~笑い)嵐で流され、運よく見つけて、回収したら、キンメダイが大漁、って事で、漁法が開発されて、実はそれらしい深海には、結構どこにも居た~~♪

    郷里に「ギバサ」(標準和名はアカモクと言うらしい)と言う海藻が有って、特産、だと思って居たが、日本海側ではかなり広く食べられていて、呼び名が違っていて、それぞれ勝手に、郷土名物~~♪
    勿論その逆も有って、その地域限定の習慣だったり、産物だったりするが、生まれた時から身近で、日本中~場合によっては世界中に普遍的だと思ったり。

    にも拘らず「普通」「常識」「当然」とかで、済まされる~~♪

    話は急に飛んで、昔「連合赤軍事件」と言うものが有って、内ゲバなる陰惨な言葉も生み出したが、特異的な事~人が、密集して「濃厚接触」をしていると、「異常状態」が発生し易いが、そこの構成員は、それが認識できないで、異常行動が、平常行動の様になる事が頻発するらしい。特に経験の裏付けがなく、一定の思想が純度を高めて抽出されて行き、殆ど結果は悲惨。

    1. ハシビロコウさま、有り難うございます。

      この話は間接的に小保方さん擁護の記事だったのですが、どんなものにも可能性はあるから、そう目くじら立てないで、と言う事だったと思います。
      今般のウィルス騒動に鑑みるなら数百億円の無駄など何も影響のないような在り様でしたが、彼女関連の研究費は5000万円くらいだったのではないでしょうか・・・。
      場合に拠ってはこれまでのあらゆる価値観、宗教観すら変えてしまう程の大発見になるかも知れない研究を、みんなで拠ってたかって潰してしまった事を残念に思います。
      科学の研究などその99%が失敗であり、残りの1%を導くためには99%の失敗は必須です。
      それを一部の失敗も無駄使いも許されないとしたら、誰も怖くて新しい事など研究できない。
      今から40年前、そんな事ができるはずはない、と言われていたものが今は出来ています。
      バブルと言う金に対する寛容さが助けてくれたのかも知れませんが、小さな事を言っていると、時代は全く進まずに夢もなくなってしまいます。

      コメント、有り難うございました。

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