「そんなに若い女が恐いか」・Ⅱ

五百子の父「了寛」は二条家出身の尊王論者で、兄「円心」とともにこうした父から影響を受けた五百子もまた、尊王論者として唐津では認識されていたが、彼女は父の手紙を長州藩の家老に届けるために長州に赴き、そして関所でもめていたのであり、「了寛」が娘に託した手紙には唐津の尊王攘夷派から長州藩への意思表示がしたためられていたのである。

いわゆるこの手紙は密書だったのだが、ここまで派手に届けられると密書としての意味があったのかどうか・・・。

それはともかく、14歳の時すでに両親の反対を押し切って単身京の都に上った五百子の事、確かに間違いなく家老に手紙が届けられたことを鑑みるなら、父が五百子に大役を頼んだことは正解だったに違いなく、また五百子も喜び勇んでこの大役を買って出た有り様に、その後の彼女の生き方を象徴すべきところが垣間見えるような気がする。

関所の役人達を一喝し、上の者を出せと気丈に振舞った五百子、しかし彼女はこの後結婚し本当に平凡な主婦となるが、夫が亡くなったことから再婚する。

そしてこの2度目の結婚では本当に幸せな家庭を築くのだが、五百子はある日突然この再婚相手に離縁を申し出る。

この時の離縁の理由がいかにも五百子らしいところだが、「国事に奔走するためには足手まといになる」から再婚相手に別れようと言うのである。

つまり私は国家や「公」の為に働きたいので別れませんか、と夫に言ったのだが、この再婚相手は相当五百子のことが好きだったのか、はたまた五百子の情念が再婚相手に通じたのかは分からないが、五百子の夫はこうした妻の言葉を受け入れ、ここに離婚は成立する。

後世こうした有り様にウーマンリブや、女性の権利の主張と言うものを重ねる者があるが、そうした判断は大変浅いものと言わざるを得ない。

離婚後、五百子は娘に店の手伝いをさせ、自分は長州での大太刀まわりよろしく、今度は明治政府の役人相手に脅す賺す(すかす)を始めるのであり、唐津港開港、鉄道敷設などは彼女の尽力によるところが大きかった。

またこのようにしてある程度の年齢になった五百子はさらに老獪さを増し、まことにかけ引きが上手かったと言われていて、こうしたことから皇族の「近衛篤麿」と知己を得た彼女は、「近衛篤麿」の協力を得て日本初の女性団体「愛国婦人会」を創設するに至るのである。

「奥村五百子」、彼女を考えるとき私などが思うことは、この女性は当代の女性の感覚ではなく、では未来なのか過去なのかと言うことである。

ある種とんでもなく進んでいるし、また一方では徳川幕府より遥か以前の自由な部分も持っていて、どちらか甲乙つけがたいものがある。

現代社会で盛んに唱えられる男女同権、男女平等などと言う概念は本当に浅いものだ。

どこかの国の国会議員が「では女が立小便できるのか」と言ったらしいが、せいぜいこの感性が限度のところは男女ともに存在している。

男女と言う性差にまで一律な概念を持ち込み、それをして平等と思ってしまう、また立場上、女が男に勝ることをして女性の地位が向上したと考える事の愚かさ、そうしたものを鑑みるとき、私はこの「奥村五百子」の精神にこそ本当の意味の男女の公平性を感じるのであり、五百子の考え方には「女性として国家の為に何ができるか」、「女性として国家が戦っているとき、どう戦えば良いのか」と言った、「女性として」と言う基本が有ることの偉大さがある。

現代国際社会の持つ男女同権の考え方は、いずれ必ず修正を余儀なくされるだろう。

人間は確かに平等であるべきだし、また男女がいなければ子孫も残せない。

しかし男と女は一緒なことができない。

子供を産むのは女性でしか有り得ない現実は、そもそも男女が同じではないことを事実として示しているのであり、協力して同じ権利を持つことはできても、同じではない。

このことをしっかり自覚したところに、では男としてできること、女としてできることと言う、本当に互いの性差を認め合った平等がある・・・と私は思うのだが如何なものだろうか。

いきなり妻から国家や「公」の為に奔走したいので離婚して欲しいと言われたら、どうしようか・・・。

多分私は感激して離婚に応じるような気がする。

 

T・asada
このブログの記事は「夏未夕 漆綾」第二席下地職人「浅田 正」 (表示名T・asada)が執筆しております。

6件のコメント

  1. 「そんなに若い女が怖いか」・I・II

    無気力人間が増えて、少子化が進んで、国全体が、下り坂になったのは、詰まらん西洋の男女平等思想で、根本神が、天照大神の日本には合わない、男女が協力して初めて、一つの事を為すことが出来る。

    重要な事は、某女子大の標語、「人間らしく、女らしく、あなたらしく、あなたならでは」勿論男は「人間らしく、男らしく、あなたらしく、あなたならでは」で遣ればよい。

    但し、それは自分の頭で、じっくり考えなければならない、マニュアルを待つのは、ロクデナシ。

    1. ハシビロコウ様、有り難うございます。

      ジェンダーと言えばそれらしいですが、ここには現実の生身の人間が無視されている。
      確かに平等は大切ですが、同性でも平等は有り得ない。
      経済的、身体的、社会的、性格的にすべての人間が同じ価値観、フレームを共有する為には帝国の支配の仕方のような、曖昧さとスケール感が必要になります。
      事細かにこれを定めてしまっては、逆にギャップから溝は深くなる傾向が出てきます。
      昔在った中p連のような、歪んだ権利主張のみのジェンダー思想が蔓延る事になります。
      明治と言う時代は面白い時代で、大変な格差や差別が在りながら、思想的には非常に自由だった。
      それまでの封建制時から解放され、新しい道が開けていたからかも知れませんが、ある意味女性のチャンスは今より大きかったかも知れない。
      しかし、今の時代はチャンスが大きそうに見えていながら、実はとても狭い。
      自由や権利が大きくなると、逆に窮屈になる見本のような者ではないかと思います。

      コメント、有り難うございました。

  2. 「恐れと畏れ」

    聖武天皇が大佛造立の詔を発せられたとき、天災~疫病~不作が連続して、その上に又、奈良の大仏を作ると言う、農民にとっては、最低の行政だったが・・・当時行基菩薩は、当時は未だ小僧だったけれど、民衆を動員して、社会事業を起こし、逃散した者どもを使ってなしたが、食物を得る機会にもなった。

    一種の公共事業の拡大だったのだろうけれど、今は間違った、経験から間違った財政~特には消費税などで、物流を止める方向に動いているが、逆を遣れば良い、経済で国家と家庭は違う。自粛なんぞ即中止、積極財政を推進、コロナ肺炎は、毎日現在10名程度亡くなっているが、平常でも毎日約3300人が亡くなっているのに、何を恐れているかと言えば、自分が誹られて、地位を失う事を畏れているだけ、政治家失格~~♪
    将軍は死を恐れないければならないが、畏れはならない時もある。

    1. ハシビロコウ様、有り難うございます。

      世界遺産の原初は、革命や戦争に拠って古い遺跡や歴史的建造物が破壊される事を防ごうとしたのが始まりでしたが、今やこれにぶら下がって金儲けのみのさもしい制度になってしまいました。
      大体歴史的建造物や自然を観光資源と感がる、その卑しさから始まって道を誤っているだろうと思います。
      富士山を世界遺産などと言った時には笑ってしまいました。
      あれは遺産ではなく自然です。
      まるで人間の所有物のように自然を考えていると、その内とんでもないしっぺ返しを受ける事になるでしょう。
      人間がどう思おうと富士山は存在し続け、日本人が全て滅んでも富士山は残っている。
      このスケール感を考えれば、世界遺産などと言う奢った考え方の愚かさが理解できるかも知れません。

      コメント、有り難うございました。

  3. 「片務最恵国待遇」

    最恵国待遇も人種平等などと一緒で、観念上では成立するが実際上は幻想にすぎない。
    国力、個人の貧富その他に影響・依拠しているのを十分理解して運用した方が良い。目標としては、有った方が良いが、賢く成らざるものが、跳梁跋扈して、事態を悪化させている。
    消費税の片務は、不平等を助長しているだろうし、今流行のBLMなどは、陰に鋭い陰謀が有るとしか思えないが、お花畑が、事態を複雑にしている。

    Do in Rome do the Romans do を味わった方が良い。

    1. ハシビロコウ様、有り難うございます。

      EUの思想がこの話には最も近いのですが、親友同士の関係を町内会にまで拡大し、それ保証しなければならないとしたら、これは結構難しい、と言うより不可能なのですが、こうした思想で物事を始めると、その能力差から、一番力のない者、一番愚かな者を最高能力としなければならない。
      経済的発展はとても見込めるものでは有りません。
      既にEUは現実的崩壊の局面に有りますが、日本の消費税制でも、観光を優先して国民が高い消費税を払っているのでは、国民が受ける恩恵が相対的に減少している事になります。
      その上で大手企業のみが資本を積み上げ、国民は貧しくなった上に、さらに増税と言う不利益を被る事になります。
      国家は国民の為のものであり、国民の利益を最優先するなら、この外国人の免税措置は観光業界のみに光を当てる、偏った政策としか言いようがなくなる訳です。

      コメント、有り難うございました。

現在コメントは受け付けていません。