「老いとは何か」・Ⅰ

「プロジェリア症候群」(progeria syndrome )と言う病気がある。

正式名称は「ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群」(Hutchinson Gilford syndrome )と言うが、いわゆる早期老化現象を発症する病気の一種で、「プロジェリア」と言う言葉は、ギリシャ語で「老年」を意味する言葉から由来していて、一般的に早期老化現象を呈する症状全般を指してこの名称が使われる事もあるが、他にも早期老化現象を発症する病気として、「ウェルナー症候群」「コケイン症候群」なども存在する。

「ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群」は、400万人から800万人に1名の発症率があるが、400万人と800万人では2倍の開きがある事から、この病気の発症率は正確な統計が取れないほど稀な病気であると言うことだ。

2008年の記録によると、全世界でこの病気を発症している患者数は43名、乳幼児の時点で発症し、時間的スケールで言えば、通常の10倍を超えるスピードで全身の老化現象が起こってくる。

身長は低く頭が大きく、頭髪が無く、眉やまつげまでも早い段階から脱落し、尖った鼻に甲高い声と、老化した皮膚は皺だらけの状態と言う特徴を持つが、この病気を発症している場合の平均寿命は13歳となっていて、その死亡原因は動脈硬化や脳血管障害が多くなっている。

残念なことだが、現在この病気の治療方法は見つかっていない。

ただ原因として考えられることは、この病気を発症した患者の、細胞内の核膜を構成する「lamin A」と言うたんぱく質の遺伝子「Lmna」が、突然変異を起こしていることが2003年に報告されていることから、「lamin A」たんぱく質の遺伝子を研究することで、この早期老化現象症候群の治療に役立つのではないかと考えられている。

またこうした研究は、一般人類の老化現象のメカニズムを探る上でも、貴重な研究と言え、もしかしたらこうした遺伝子の研究によって、人類はその寿命をコントロールできる日が訪れるかも知れない。

そして人は何故老いて行くのか・・・。

実はこの人類に取って余りにも当たり前過ぎる現象について、人類は何も分かっていな

老いると言うことは医学的、生物学的な見地からすると、身体機能が衰退すると言うことと定義されるが、では身体機能が低下しないとはどう言う事なのだろうか。

つまり若い世代は何故身体機能が低下しないのだろうか。

そも生物は、生物学的な側面からすると、全てがその子孫を残すために生まれてくると考えられる。

そしてこうしたことから子供を作り、それが一人で生活できるまでに育て上げる間の期間を「生殖期間」と仮定するなら、こうした期間に付いてはその個体の身体的機能は保証されているだろう事も理解できる。

人体の体温は平均で36度から37度であり、これは人間がその持っている機能を保つために、平均してこうした温度に保たれる必要があるからだが、この状態は例えば外気がこの温度より高くても、またその反対に低くても一定の幅の中に保たれ、この状態を「ホメオスタシス」(恒常性)と言う。

またその一方こうした「ホメオスタシス」を乱そうとする因子があり、こうした因子、力を「ストレッサー」と呼び、恒常的な状態からずれた状態を指してストレスと言うが、ストレスは何も精神的な部分だけではなく、全ての分野に措いて、何某かの恒常性に対する抵抗を意味している。

人間が身体的にストレス状態になると、当然人体は復元力を働かせ、ストレスから「ホメオスタシス」状態に戻そうとするが、若い世代、つまりは「生殖期間」ではこの復元力が強く働き、身体的ストレス状態はそう長く続かないが、「生殖期間」が過ぎてくると復元力は低下してくる。

例えば室温24度の場所から、いきなり気温0度の冬の外気に人体が接した場合、20歳の人体だと数秒で体温は恒常化するが、70歳だと常温に戻るにはかなりの時間が必要になってくる。

このような現実を鑑みるなら、人間が何故生まれてくるかと言う問いは、この人体の摂理を見ても明白なものが有るような気がする。

だがここでもう一つ考えたいのは、では「復元力」とは何だろう。

このことを脳のシステムから考えてみると、人体にはストレスを感知するセンサーが存在し、前出例を用いるなら、冬の外気にいきなり晒された皮膚のセンサーは、「寒い」事を感知してこれを脳に伝えるが、脳の機能は「ホメオスタシス」の指令中枢とも言うべきものであり、それぞれのストレスに対処する復元力を発現していく。

「寒い」と感じると、脳は副腎に指令を出し、ホルモンの一種である「アドレナリン」を血液中に放出させる。

それからこの「アドレナリン」が肝臓などにある「グリコーゲン」を「ブドウ糖」に変換させ、この「ブドウ糖」が血液を通して各器官に配給され、それぞれの器官はそれを燃焼させて熱源を得、また一方こうした作用は末梢血管に措ける血流も活性化させることから、身体全体の温度が上昇し、その結果寒い外気に対抗するのである。

だがこれが高齢化した人体だとどうなるか、復元力が低下した老人に措いては、恒常性についても機能が低下し、このことが例えば体温だけをとっても、その恒常的回復に時間がかかってしまうのは自然の理であり、それでは何故復元力が低下するのかと言えば、それは「ホメオスタシス」の指令中枢である「脳」の機能が低下するからに他ならない。

つまりは人間の寿命は人体の各器官の衰えで決まるのではなく、それを衰えさせる脳の機能がこれを決定していると言えるのであり、実は人間の体は常にあらゆる細胞が死んで行き、そして生まれ変わる事を繰り返していて、言うならば人体は「器」と言う事ができる。

ちょうどゴム風船の上と下に小さな穴が開いていて、その上の方からは常に新しい水が入り込み、下からは古い水が抜けていくようなもので、人体のあらゆる部分はプログラムによって、正確に死滅した細胞と同じものをまた作り上げ、そうしたことが連続して人体を人体たらしめているのであり、そうした全ての細胞の機能を総括しているものが「脳」なのである。

それゆえもしかしたら、例えば何かの臓器が悪いから交換したとしても、基本的に永遠に生きられるかどうかと言う問題になると、別な視点が必要になってくる。

「脳」がどのくらい生きられるか、この問題を抜きにして人類は生命に付いて語る事を得ないだろう。

「老いとは何か」・Ⅱへ続く

T・asada
このブログの記事は「夏未夕 漆綾」第二席下地職人「浅田 正」 (表示名T・asada)が執筆しております。

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