「消失する炎」Ⅱ

ただ癌治療に措いて、特にステージが進行している方については、近代医学、薬学療法は間違いなくそこに「完治」が目指されていないことから、症状の緩和、延命と言う療法であり、ここではいずれかの時点の「死」が想定されることを鑑みるなら、投薬療法と、例えば温熱療法を組み合わせるなど、近代医学、薬学と民間療法の併用が一番効果が有るように思える。

癌克服の道は、こうしたさまざまな治療法から自分に最も適した療法、その組み合わせを探す道なのかも知れない。

癌は難しい病気だ、なぜならそれは自分自身の体が起こしている症状だからだが、人類は癌のことも分かっていなければ、自分自身の体のことも良く分かってはいない。

発症した癌を切除したとき、その切除面は再生細胞が活性化し、そして癌を追い出してしまうことがある。

だがその一方で免疫力が低下していれば、それはまた癌転移にも繋がる。

また進行癌の全身症状として発熱、食欲の低下、更にはその皮下脂肪の全てが失われるほどの体重減少、血小板の減少による大量出血、白血球減少による重篤な感染が起こる症状を「悪液質」と言うが、この「悪液質」は白血球の一種であるマクロファージから分泌される「カケクチン」と言う成分が原因となっている。

だがこうした「カケクチン」を含む一群の因子はTリンパ細胞のアポトーシス(細胞死)に関係するものと考えられ、人体の中の不必要なもの、あるいは有害な細胞郡を排除するメカニズムを持っている。

それゆえ「カケクチン」は癌末期の症状要因でありながら、癌細胞に対する破壊作用も持っている。

カケクチンの別名を「腫瘍壊死因子」「TNF」(tumor necrosis factor)と呼ぶのはそのためである。

癌に対する人体の防御反応の1つとして、癌発症者ではマクロファージがTNF(カケクチン)を大量に生成し、これが癌細胞の破壊には有効に働かず、「悪液質」となってしまうことを考えるなら、これを有効に働かせることができれば癌細胞を破壊することができる。

その観点から開発されたのが「TNF-α」だが、癌に有効な物質の殆どは、本来生体全てのバランスの上に成立しているものであり、従ってどんなに癌に対して有効なもので有っても、それだけを突出して使用すれば、副作用となる可能性の方が高くなる。

ゆえにこうした医学、化学の分野はその生体が持つ本来の機能に対して、補助的役割となるのが望ましい。

癌は「可能性」と「死」を同時に包括している。

また人体が持つ癌抑止成分は、本来癌抑止だけの為に人体内に作用してはいない。

このことから考えるなら、癌は外科的治療にしても、免疫、薬学療法にしても、どれか一つの方式に頼っていては、苦しい副作用の割には治療が捗らない現実が訪れる。

人体があらゆる作用の総合で営まれていることを鑑みるなら、近代医学、民間療法、そして大切なのは「生きる、生きようとする意思」の3つの要素が、その個人に最も適合する形で組み合わされた時に効力を発揮するのではないか、そのようなことを思うのである。

またこれは冒頭にも出てきたことだが、癌細胞プログラムは、もしかしたら生物が単細胞生物から多細胞生物に移行する過程で、何某かの役割を果たした可能性があること、そしてこのような生物の変質はこれから先の未来にも有り得ることであり、その点からすれば癌細胞もまた、生物が生存していく上で大きな可能性となるべきものなのかも知れないと言うことだ。

それゆえ我々の社会は決して癌に対して無関心でいて良いものではなく、また自分が発症していないからと言って、人事のように考えて良いものでもない。

現在癌を発症し、苦しんでいる患者や家族は、自分の身代わりで犠牲になっているかも知れない、生物と言う大きな流れの中で、自己犠牲によってその流れを繋いでくれているかも知れないのだ。

この社会が健常者だけを想定して作られているのではまずい。

今日も明日も、10年先までも夢見ることができる健常者は、その幸福を自身の力だと思ってはならない。

生物学的確率で言うなら、自身のその健康は、多くの病に苦しむ者達のおかげで成り立っているとも考えられるのであり、さらに言うなら、「明日癌を発症しないと言い切れる者」など、この世にたった一人として存在しないのである。

 

T・asada
このブログの記事は「夏未夕 漆綾」第二席下地職人「浅田 正」 (表示名T・asada)が執筆しております。