「回答書簡・7」

兎は後ろ足が長く前足が短い。
だから兎を追う時は山の上から下に向かって追い落とすと、慌てて走れずに転がって行く。
それを山の裾で待っている者が捕まえると容易い。
だがこれは決して兎だけに限らず、人間でも山に登る時より降りる時の方が危なく、階段などでは確実に上がる時に踏み外すより、降りるときに踏み外す方が怪我は大きくなる。

 

一般的に生物は前に進む事、上がっていく事を主体にその構造が為されている事から、精神的な部分でも同じ事が言え、逆境や苦難にはある程度の耐性が有るが、その反対の状態となると、極めて脆い。
生物が生きて行く事は元々大変困難な状況にある為、もしかしたら困難な状況に立ち向かって行く、漠然とした本能を身につけたのかも知れないが、これが長じて快楽や安楽の状態に有ると、結果としてその様な状態は体や精神の後退をもたらすのだが、そこから抜け出す術は身に付いていないと言う事なのかも知れない。

 

そして基本的には人間も生物の理の中に在る事から、他の生物よりも安楽の状態、安全の状態が多いとは言うものの、それでも安楽な状態や安全な状態と言うのは長くは続かず、ここで安楽な状態を主として考えしまうと、生きていることが不満や裏切りだらけになってしまう。

 

約束は破られ、裏切られ、貶められるのは世の常で有り、これが正しい状態と言える。
生が有り死がある以上いつか人間は裏切らざるを得ず、自分のものだったあらゆる全ては確実に失われ、しかもそれは時間の問題と言うものだ。

 

いや、例え死が訪れずとも自らが生きて、親兄弟、妻子の安寧を思う時、やむを得ないとしても必ず人を裏切ったり、約束を守れない時が出てくる。

 

自分ですらこうだ、人から裏切られたくないと思っている、その自分が既に間違いなくいつかは裏切らざるを得ない時を迎える。
それゆえ、人を責めてはならず、自らも自分はいつも間違っていないと思ってはならない。

 

今日は言葉を守れても、10年後にそれが守られなければ、自分の一生を考えた時、それはただ時間の問題、或いは約束を守る事の困難さの程度にしか過ぎなかった事になる。

 

だから約束は守れるとは限らず、金の為には平気で人を裏切るし、どこかでは人の気持ちなど信じていないと言わざるを得ないのは、いつかそうした時が訪れた時の為で有り、その時は事前に裏切る旨を相手に伝えれば良い。

 

人間は弱いもので、こうでもしておかないと、いざ裏切らざるを得ない場面に遭遇した時迷い、悩み、苦悩して多くの労力を費やしながら判断を誤る事が多い。

 

また策略や自分の心に対する嘘は損失が無いから良いが、相手の有る場合の、しかもつまらん嘘は何でもない事に大変な労力を要する為、親兄弟、妻子や友人の間では尚の事避けるべきだ。
繕った平和など簡単に壊れる。

 

多少揉めてたとしても皆が言いにくいことを先に言える環境、それが許される環境を作っておく方が望ましい。

 

それと形に残る物を贈られたら、その者とは遠からず関係が切れるか、若しくは自身が苦痛になってくる時が訪れるので注意し無ければならないが、これは自分にも言える事で、例えば恋人や妻子でも、自身の持つモラルや社会的道義と完全に一致する事は有り得ない事から、手紙などを送ると、場合によってはそれが相手の友人の中で回し読みされ、笑われている時が出るかも知れず、そうで無くても結婚しても一生添い遂げられる事が困難な今日、下手に契約書になるような手紙は書かないことだ。

 

告白は本人の目の前で、口頭で行うのが一番気持ちが伝わるし、将来関係が解消されても証拠が残らずに済む。

 

つまり男女の間では手紙や形に残る物を贈り合わないように、花や食べ物にして置く、相互にいつでも逃げられるようにしておかないと「縛り」が出てきて、気持ちを満たすための労力ばかりが増え、それで維持される物は「通常」と言う厳しい状態になる。

 

更に基本的には必要条件がない、つまり完全にペットして犬や猫を飼っている人間よりは、金魚や亀などを飼っている人間を選ぶと良いかも知れない。

 

これは「支配」の問題なのだが、人間が他の生き物を飼う場合、支配に対して「反応」のある生物を飼っている場合、人間に対しても同じ傾向が有り、これが金魚など支配に対する反応が少ない生物を飼っている人は、人間でも相手の中から良い部分を探して付き合おうとする傾向が強い。

 

ゆえに犬や猫を飼っている人を配偶者に選ぶ場合は、ある程度の「支配」を自分が覚悟しておく必要が有り、これを避けたいと思うなら水棲動物を飼っているか、若しくは「ペットを飼うのは面倒臭い」と言う人を選ぶと失敗が少ないかも知れない。
最後にビジネスで人を選ぶなら「手に入りにくい人」を選べ、恋愛や結婚で人を選ぶなら「簡単に手に入る方」を選べ・・・。

 

金になる人はそう安易に転がっていないから門の狭い方が利益になり、そして恋愛や結婚は「愛するよりも愛される」方が苦悩や将来のリスクが少ないからである・・・。

 

そしてくどいがもう一つ、山を登るより下る時が危ないのと同じように、人も出会う時より別れる時が遥かに難しく、実は別れる時の在り様こそが次のチャンスに大きく関係してくる。

 

彼女に高額な貴金属を贈り、その後別れる事になったとしても、くれぐれも贈った物を返せとは言ってはいけない。

 

回収して質屋で換金した金額以上の悪い評価が元彼女の周囲で広がる事になるから、一言「そうか、今まで有難う」と言って、もう二度と会うことも連絡も取らない、そんな男が格好良いと思う・・・。

 

夜少し遅くまでかかったが、どうやら記事にすることが出来た。
NKさん、YKさん、そしてTMさん、良い人と巡りあって、
幸福な家庭を築いてください。期待しています。
いつまでもお元気で・・・。

 

有難うございました。
[本文は2013年2月18日、Yahooブログに掲載した記事を再掲載しています]
T・asada
このブログの記事は「夏未夕 漆綾」第二席下地職人「浅田 正」 (表示名T・asada)が執筆しております。