「混沌の速度」

静かな部屋でエアコンのスイッチを入れ、冷たいビールを飲んだとしようか、実はこの瞬間にも「混沌」は発生し始める。

少し前の「濃度の逆べき分布」で出てきた「ローレンツ・アトラクタ理論」では、物体が3つ存在するところには既に混沌が始まってくる事になり、この世界でどんな物質も単体独立存在が有り得ない事から、全ての事象は初めから程度の差は有れ混沌なのである。

従ってどんな事象でもそこに「流れ」は見ることが出来ても「確定値」は存在せず、その「流れ」も常に後から追いかけてくる混沌によって不定値となり、ここに統計やデータによる解析はそのデータや統計が多くなるほど「例外」や「異常」によって満たされ、最後はその統計やデータに基づいて導かれた予測が不確定になっていく。

この事は気象に限らずあらゆる物質の存在に見られる原理で有り、地震の予測等も間違いなくこの範囲に有る。

それゆえ例えばニュージーランドで大きな地震が発生し、そレから暫くして東北海域で中規模な地震が発生したら、その数日後に大きな地震が発生する等の予測は、1回ならそれは有り得るが2回目からは少しずつ傾向が変化し、最後は「偶然」と同じ確率に到達するのであり、これは他の科学的解析予測、準科学的解析に措いても同じである。

気象庁の緊急地震速報のシステムでもP波は常に混沌の中に有って、確定P波を捉えられる場合は、それが中規模以下の地震になる確率が高く、大きな地震の前に発生するP波は初めから「拡散」されてくる為、同時刻に離れた場所で起こった小さな地震を2つ以上捉えた場合の解析と、巨大地震が発生する前に捉えられるP波の解析は近似値なのである。

面白いものだがこれは「不確定性原理」に近いものであり、以前にも解説したことが有るが、100%未来を見ることの出来る預言者によって、私が明後日交通事故に遭遇して死亡すると予言されたとして、私は当然死にたくないから明後日は一歩も家から出ずに過ごし、結果として交通事故死しなかったとしたら、どうしようか・・・。

この場合、予言が日時や場所まで特定していたとしたら、その予言の正確さゆえに予言は外れる事になる。

預言者が正確な未来を捉えれば捉えるほど、その予言は外れていく確率が高くなる訳であり、地震が持つローレンツ・アトラクタの混沌と不確定性原理の持つ「未来の不確定性」は全く別のものに見えて、結果が同じで有る事を示しているかのようだ。

緊急地震速報システムは被害の無い中、小規模の地震予測は正確に行えるが、2つ以上の微弱地震が同時発生する場合と、巨大地震が発生する場合のP波を区別することが出来ず、また2箇所以上に微弱地震が発生し、それで終わるのか巨大地震になるのかの確率も、統計的数値が増えるに従って「ランダム」、つまりは50%ずつの確率に近付く事になる。

簡単に言えば「解らなくなる」と言う事で、その意味では巨大地震発生予測は「来てみなければ解らない」事になるが、気象庁の「緊急地震速報」は2013年8月8日に巨大地震発生を予測し外れたものの、これを責めるには当たらない。

むしろ大きな地震が来なかった事を喜ぶべきものかも知れない。
いつかは分からないが関東地震や東海地震は間違いなく発生し、その20年先には南海、東南海々域に措ける巨大地震発生の確率が非常に高い事は判明している。

また先の日本海溝地震(東日本地震)以降、海溝プレート運動によって混沌化した日本列島の地殻運動は、火山運動の活性化現象をもたらし、日本海溝地震もそれが本体なのか、或いは何かの前触れなのかすら判明せず、北海道南西沖、北海道北東部の震源域が不気味な兆候を示している。

更に近年増加している南西諸島海域の微弱地震は、或いは南海地震を想定しなければならない事態に有るのかも知れず、こうした事を考えれば明日にも日本のどこかで巨大地震が発生する事は、もはや何の不思議も無い状態にある。

しかし日々の生活に追われ、或いは緊迫する国際情勢に追われた日本人は、ともすれば日本と言う国土そのものが危機に有る事を忘れ、なし崩し的に原発の再稼動などを実行して行っているが、50%の確率のものは「来ない」のではなくて、間違いなく来る事が決まっているものなのである。

そして今日来なかったら明日、明日でなければ1年後と言う具合に地震発生の確率は未来に行くに従って「確率の集積」を起こす。
まるで網に魚が追い込まれるように確率が追い込まれて行く事になり、その意味では未来に行くに従って苦しみや不安な状況が長く続くだけと言う側面が有る。

気象庁が緊急地震速報を外す原因は2箇所で同時に発生した微弱地震だが、微弱地震とノイズでも同じ観測効果が出てしまう。

元々地震に措けるローレンツ・アトラクタ傾斜は、気象のアトラクタ傾斜の2乗クラスの混沌速度を持っている為、このように一回々々で少しずつ入力すべき基礎データが違ってくるのである。

統計はある種の平均値なのだが、この平均値は少しずつ平均値からずれた小さな異常によって構成される為、それを基礎データとした時、先の予測は混沌になる。
言い換えれば鉛筆を転がした結果や、コインの裏表で地震発生を予測するのと同じになってしまうのであり、これが気象庁の緊急地震速報が外れるメカニズムだ。

だが、例え外れたとしても緊急地震速報は意義のあることかも知れない。

怒涛のように流れていく情報社会では、今日来なかった危機が明日は来るかも知れない事を忘れさせ、どうしても国家や民族を精神的な部分でしか概念させなくなるが、国家や国民生活の最も基本的な部分が人と国土に有る事を、そしてこれらの事を一番先に考えて国家運営に当たらねばならぬ事を、我々に再認識させてくれる。

最後に絶対そうだと言う事は出来ないが、緊急地震速報で自分がいる場所が震度4以下の場合は、速報から実際に揺れ始めるまでの時間は20秒から40秒で、これが震度6や震度7の地震が的中する場合、速報が出てから最大で7秒、早ければ速報の前に揺れは始まっている事になる・・・。

[本文は2013年8月9日、Yahooブログに掲載した記事を再掲載しています]

T・asada
このブログの記事は「夏未夕 漆綾」第二席下地職人「浅田 正」 (表示名T・asada)が執筆しております。