「国家安全保障の危機」

国家存亡の危機は何も他国との戦争だけがそれではない。
気象災害、大地震、経済危機、パンデミック(感染症の拡大)、原子力発電所事故、政治的混乱、テロ、国民の高齢化など、現在日本を取り巻く環境は一発触発の危機に囲まれていると言っても過言ではない。

2003年6月6日に国会を通過可決された「武力攻撃事態対処関連3法」と、翌2004年6月14日に可決成立した「有事関連7法」は基本的に「アメリカ同時多発テロ事件」を背景としている事から、これらを総括して「有事法制」と呼称される法案は暗に「予防措置」にまで及んでいる。

すなわちこうした法案は日本国憲法、国際連合決議である基本的人権の保障に制限を加える事が可能な法案であり、極端な言い方をすれば、意味も無く3人以上が家に集まっているだけでも警察の捜査権が発動できる仕組みでも有る。

またこれに加え現在閣議決定が為され国会で審議中の「特定秘密保護法案」が国会を通過した場合、1941年(昭和16年)3月10日に発動された「治安維持法」に既に匹敵し得る「暗黒法」となり得る恐れが有る。

元々日本が単独で保有できる国家安全保障に関する秘密は存在し得ない。

すなわち日本の軍事上の安全保障はアメリカ抜きでは成立せず、この意味に措いては「特定秘密」そのものが既にアメリカとの共有になるのであり、今般発達してきたインターネット社会では、問題や事件の最先端が既に発信基となる時代なっている事から、あらゆる意味で特定秘密保護の思想は「隠蔽」と言う意味しか持たなくなる。

更に2003年、2004年の有事法制の時点には有事と言う、本来は戦争状態を想定したものが、テロの予防と言う拡大解釈が為された経緯を鑑みるなら、この当時から発生してきたマルチハザード(全ての危機)に対処を想定する概念が色濃い「特定秘密保護法案」は、例えば日本の安全保障に必要と言えば、原子力発電所事故すら隠蔽できる可能性を持ち、また国家転覆の意図が有るとすれば邪魔者を追い落とす事も可能になる。

以前から公安1から3課と言う太平洋戦争時の憲兵組織に近い組織が存在しているが、政治的思想、国家や行政に反対する者を監視する仕組みは、ある種の闇の機関の為すところだった。
しかし「有事法制」と「特定秘密保護法案」が有れば、こうした組織が表の組織になる可能性が否定できない。
まさに太平洋戦争時の治安維持法と同じである。

日本が軍事的脅威に直面する場合の情報、或いは日本本土の甚大な災害に関する情報、及び国際社会で発生する日本人が事件や紛争に巻き込まれる事件に措いても、その情報収集能力が一番遅いのは日本政府で有り、多くの情報はアメリカやNATO関係の情報伝達が先になる。

それゆえ例えば日本が戦争に巻き込まれる場合でも海外メディアによってその情報は1日ともたずに流出し、為替相場の都合上、巨大災害を隠蔽しようとしても、その情報は日本より先に世界が知っているのが現状の在り様の中で、「特定秘密保護法案」などはナンセンス以外の何者でもない。

有事、特定秘密の第一種機密は軍事防衛、外交だが、軍事防衛の秘密保護法は1954年(昭和29年)に成立した「日米相互防衛援助協定による秘密保護法」が当時も、現在に措いても軍事上の秘密保護要件を全て補完している。

また外交に措ける秘密や機密は日本外務省の情報収集能力が先進国中最下位で有ることから、そもそも姑息な手段ぐらいは隠す事は出来ても、日本の安全保障に関わる情報は全て諸外国の方が先に認識している。

つまり日本に措ける秘密保護は軍事防衛ではアメリカとの相互協定で事は足り、外交上の秘密などは取るに足らないものばかりでしかない現状での「特定秘密保護法案」は、日本の政治家の質を鑑みても殆ど漫才か、小学生の生徒会が秘密保護規定を作ったぐらいの感じにしかならない。

だが、恐ろしいのはこの日本の政治家の質の悪さと愚かさで有り、これでも政府な訳で、国際法上はアメリカやイギリス、フランスなどの諸外国と同じ効力を国際社会が認める事に有り、これが現実には対外的に何の効力も無い場合、それは主に日本国内に、日本国民に対して向かってくるので有る。

場合によっては国際社会がみんな知っている日本の危機を日本国民だけが口に出来ない可能性が訪れるのであり、その一番解り易い例が中国の政治体制ではないだろうか。
チベット自治区、イスラム文化圏の民族が弾圧を受けながら、それに対して国際社会が何もしてやれない事態をどう思うか・・・。

有事法制でも充分日本の危機だが、その上に「特定秘密保護法案」が可決成立するなら、それこそが日本の安全保障上の重大な危機と言えるのではないか。

明治の元勲「西郷隆盛」はこんな事を言っている。
「人に聞かれてまずい話は戸を開け放って話した方が聞かれにくい・・・」
また「秦帝国」以前の春秋戦国時代の中国でも、やはり密議は戸を開けて行えと有り、火で手をあぶり乍、灰に一字で意思を表わす字をやり取りしていた・・・。

国家安全保障会議や「特定秘密保護法案」などと言う大そうな言葉を使ったものは、その時点で国家の危機を人に覚られ、秘密の所在が知れようと言うものである。

[本文は2013年11月23日、Yahooブログに掲載した記事を再掲載しています]

T・asada
このブログの記事は「夏未夕 漆綾」第二席下地職人「浅田 正」 (表示名T・asada)が執筆しております。