「仮想通貨と通貨」

通貨の本質は全て仮想である。
基本的には物品やサービスに対する代償を決済する為の信用である事から、通貨自体の価値は代償に相当する価値を初めから持っていないが、これを保障する者が在って通貨の信用は保たれている。

つまり我々は貨幣や紙幣を価値と看做しているがこれらの本質は信用なので有り、この信用の程度が国が発行している通貨よりも高く利便性が有れば、その形が紙切れで有れデータで有れ流通する事は自然の流れと言える。

ピットコインの問題は、少し乱暴な言い方をすればTPPの逆流理論であり、TPP(地域間自由貿易構想)では親友同士でやり取りしていた契約の在り様、優遇制度を国家間同士で適用する構想ゆえ、全ての国家が親友並の関係で有るはずも無く、よって交渉は困難を極めるが、この反対は大変滑らかな取り引きとなる。

A、B、Cの3人の友人グループが有ったとする、Aが今度引越しをする事になり、その手伝いにBが来てくれた為対価を渡そうとしたが、親友だからと言って現金を受け取ってくれなかった。

しかしAとしてはどこかで気が引けるところも有り、かねてよりCが車を変えたがっていた事を知っていた為、Aは自動車販売会社に勤務するBに親友のCを紹介し、Cはまた随分と値引きされた車を買うことが出来た。

そしてこのA、B、Cにはそれぞれまた別の親友がいて、こうしたやり取りを拡大して行った場合、そこでは実際に物品やサービスの提供が有りながら、貨幣や紙幣を使わず、誰が誰にどれほどの金銭勘定相当の貸し借りが有るか、そのデータが通貨の代わりを為し、しかも信用は対等の個人が為した取り引きの多さがこれを担保する形になって行く。

現実にはもっと複雑だが基本的にはこれがピットコインの原理だ。

ここではそれまで国家が担保していた通過の信用責任が、個人とデータ取り引きの長さによって得られ、しかもこうしたグループ内で有ればどこにデータがどれだけ残っているかすぐに分かり、それを必要する者に対して瞬時に決済が可能である。

つまりはデータをグループみんなの信用で保障している訳で有り、この意味では国家が発行する通貨以上の信用を有する事になり、国内通貨がインフレーションの場合、実際に国家の通貨から民衆がこうした仮想通貨に逃げ込む事態も有った。

この原理を成立させた背景はインターネットの「Peer to Peer」、P2P概念から派生してきたものである。

我々のパソコンはインターネットプロバイダーのサーバーに接続されて世界に繋がっているが、P2Pはそれぞれのパソコン同士の繋がりで対等の関係にあり、情報も共有されている為に、それぞれのパソコンがクライアントとサーバーの両方の機能を持ち、しかもそのグループ内では皆が直接相手のパソコンに接続できる関係にある。

更にはこうしたグループ内の情報を全ての参加者が共有する事から、皆が知っている事で情報の精度や責任が担保され、誰か一人ぐらい抜けても大きな人数を要するグループでは代替機能が働く為、全く影響が出ないのである。

この意味でピットコインは神のような利便性と信頼を持つが、その一方で麻薬取り引きの決済、マネーロンダリング(通貨洗浄)の場としても最適だったし、更には個人が通貨を発行してその取り引きの長さで信用を得る形態は、組織的に膨大な金額をかけてシステムを守っている国家や金融機関に比べると、明らかにセキュリティ上の脆弱さが有った。

その為FBI(アメリカ連邦警察)は、かねてよりサイバー攻撃に対するピットコインのセキュリティ上の脆弱さを指摘していたのであり、今般日本の取引所が民事再生法の適用を申請した事は、その指摘がまさに的中した形となり、これに対して日本政府の「麻生太郎」財務大臣は「いつかこうなると思っていた」と発言したが、彼は決して人の事を言える立場ではない。

紙幣にしてもカード決済にしても、或いは地域や商店などが発行するポイント、マイレージなども、基本的はそれを担保する存在が有って始めて成立するものであり、原理はピットコインと全く同じものだ。

TPPでは小さな信用取引を複数国家間へ拡大したが、ピットコインは国家の信用を個人の集まりに引き寄せただけの事で有り、この点で言うなら集まった個人がそれぞれを価値を認め合うなら、ある種通貨以上の信用と利便性を有している。

しかしこうした小さな信用を使って、これに投資して利益を出そうとしたところから、ピットコインはその価値に二重、三重の担保が付けられ、投機取引が介入して本来の価値が水増しされた状態になった事は、我々が現在使っている政府発行の通貨の在り様と全く同じ事である。

そして今般ピットコインの被害額は数百億に上るのかも知れないが、この被害者を我々は笑えない。

諸費税は増税、電気料金、ガソリン、保険、食料品もおしなべて値上がりした上に賃金は下落、収入に措ける租税負担率は40%を超え、この税率は戦国時代の北条早雲の時の北条領の税率を上回っている。

加えてこうした流れから教育費も高騰し、こちらも一般的家庭の収入に措ける割合が40%を超えている。

これから先我々はピットコイン被害金額の数万、数十万倍の金額を負担していかなければならない訳で、それでもまだ借金は増え続けているのである。

その被害額を考えればピットコインくらい可愛らしいものである。
マウント・ゴックスのマルク・カルプレスCEOの隣で安倍総理、麻生財務大臣、甘利経済財政担当大臣の3人の元負け犬トリオが神妙な顔で頭を下げていても、何等異存の無いところだ。

P2Pは流通の革命になるだろうし、これが安全に経済に取り入れられる仕組みもまた、これまでの経済概念を変え、或いは私達が持つ国家の概念すらも変えていく可能性を持っている。

そこを考えられない財務大臣の軽率な言葉は、いつかそっくり自分に帰ってくる事になるだろう。

日本経済が破綻した時、私は彼に「そうなると思っていた」と言うに違いない・・・。

[本文は2014年3月1日、Yahooブログに掲載した記事を再掲載しています]

 

T・asada
このブログの記事は「夏未夕 漆綾」第二席下地職人「浅田 正」 (表示名T・asada)が執筆しております。