「調査名目の食文化」

2014年3月31日、オランダに本部を置く「International Court of justice」(国際司法裁判所)は日本の調査捕鯨を調査目的とは言えないとして、鯨の捕獲を中止するよう裁定したが、これに対して日本国内からは激しい失望の声が上がった。

しかしこの国際司法裁判所の裁定は極めて整合性がある。

日本には調査名目で捕獲した鯨を流通させ、それを料理する料亭や専門店まで存在する訳で有るから、これは事実として資源消費概念が定着している事になり、この一点でも科学的調査捕鯨とは言い難く、更に日本国内では鯨の消費を「食文化」としている為、既に日本国民の概念は科学的調査捕鯨は口実となり、明確に生物資源の消費が目的と看做されるからである。

従ってここで日本が鯨は食文化だと申告すればするほど、調査捕鯨の概念からは遠ざかるのであり、かかる事態に鯨肉料理の専門店が、調査捕鯨された鯨をそのまま破棄するのは勿体無いから我々はそれを食していると言う申告は甚だ詭弁である。

生物資源消費としての鯨の捕獲は明確に世界条約で禁止され、資源調査でのみ捕獲が許される状況で、捕獲された鯨が消費される流通経路が設けられている事自体に整合性が無い。

かつて日本では渡り鳥保護条約に基づき「鶫」(つぐみ)の霞網猟(かすみあみ猟)が禁止された時、警察に見つからねば大丈夫だと言う事で密漁が横行し、ここでは各地域の警察署長に鶫料理で「おもてなし」し、見のがしてもらっていたケースが多く見られた。

鶫は「スズメ」と名前をカモフラージュされ平気で料亭で出されていたが、日本国内で有ればこうした事もまかり通ろうが、南極付近で有ってはそうは行かない。
既に決まっているルールを平然と破り、詭弁を弄して何とかなるのは日本国内だけである。

またこうした国際司法裁判所の決定に対し、日本の林農林水産大臣が「鯨は食料資源」で有り、これを科学的に利用する道を模索し続ける旨の発言をしているが、「鯨は食料資源」と言っている段階で調査捕鯨と言う名目を蔑ろにしている事を自己申告するに等しく、刺身や竜田揚げのどこが科学的利用と言えるだろうか、反論するにも愚か過ぎる。

更に国際司法裁判所は勧告裁定の概念を持っている。

これから先の未来にもしかしたら各国で法制化される事柄に対する指針となる概念で、裁判所の決定の上に薄く横たわる指針、「未来」の概念を持っていると言う事である。

この意味に措いて各国に存在する裁判所の決定が過去の事例や、せいぜいが現在を反映するものとすれば、こうした過去や現在の概念を束ねていく方向性を持っている。

世界の文化は種々多様で、コウモリを食べるところも有れば犬を食べるところも有る。
また日本のように鯨が食文化となっている国も有るが、こうした異文化がそれぞれに歩み寄って一つの方向性を見出す役割を国際司法裁判所が担っていると言える。

それゆえ国際司法裁判所の概念は「未来」なので有り、この事は何を言わんとしているかと言えば、日本国内で調査捕鯨の中止裁定に対して異論を唱えている年代が「高齢者」付近の年代と、捕鯨や鯨料理によって生計を立てている「業者」で有ると言う点である。

今現在10代、20代、30代、或いは40代の年代層に調査捕鯨が中止された事を話しても、彼らは一様に「そうですか」と答えるだけである。
彼らは鯨を食べる文化を持っていないので有り、また鯨が美味しいとも思わないのである。

鯨は食文化と言っているのは特定の年代から上の層だけであり、この点では捕鯨が日本全体の文化とは言い切れず、単に高齢世代の郷愁に過ぎないかも知れない事、或いは他地域と比較して特色がない地域の、地域起こしの概念でしかない事を考える者はいるだろうか。

文化と言っても必要が無ければ、また社会や広義では国際的な概念でそれが衰退して行くものを守る事は、必ずしも「文化を守る」とは言い難い。
むしろ必要の無いものは衰退して滅んで行くのが正しく、こうした中で自然に残って行くものこそ「文化」と言うものの本質ではなかろうかと思う。

国際司法裁判所の調査捕鯨中止命令に対して若者はどう思っているか、それを報道したマスコミュニケーションは存在しただろうか。
反対意見だけ、特定の年代だけの意見を報道し、それが日本の総意だと言うのは法治国家とは言えない。

そしてこれから先の国際社会を生きていかねばならないのは若者達である。
高齢で有れば、人生の先輩であればこそ悪戯に自分が持つ文化と言う価値観を若者に押し付けたり、或いはそれを強要して文化を守っていると思う愚かさを慎むべきなのではないだろうか。

少なくとも私は日本の調査捕鯨の概念より今回の国際司法裁判所の裁定の方が、言葉に対して整合性を持っていると思う・・・。

[ 本文は2014年4月1日、Yahooブログに掲載した記事を再掲載しています]

 

T・asada
このブログの記事は「夏未夕 漆綾」第二席下地職人「浅田 正」 (表示名T・asada)が執筆しております。