「翼の折れた自律分散システム」

インターネットシステム中の情報で、自然発生的に出てくる増殖、集中は個人の情報検索がキーワードに従って集中し、その原初は僅かな突起だったものに次々検索が引っかかって成立する。

その原初の突起をnode(ノード)と言い、これは全体の中でどこでも発生する可能性を持ちながら、集中が始まるとそこが先頭になって全体を主導して行く形態を持ち、こうしたより多くの突起を持つサイトは、やがてその増殖によって全体の検索傾向をコントロール出来るようになって行く。

解り易い例で説明するなら、昭和初期それぞれの地域で営業していた雑貨店や八百屋などの専門店が、やがてあらゆる商品を一つの建物のの中に置いて販売する巨大小売店、デパートの出現によって淘汰された形態と同じだが、より多くのキーワードを持つ、或いはキーワードを提供する存在の出現によって小さなノードは淘汰され、やがては巨大なノードの独占的市場になった時、その巨大なノードは常に社会的正義や公序良俗に照らし合わせて自身を律する事ができるか否かと言う問題が出てくる。

つまり自社利益の前に原則自由意思で為される個人の検索と言う行為を、検索会社が操作する事が可能となっていくのである。

ちょうど古典的な資本支配の形と同じだが、巨大資本の小売店が時期を設定して大幅な安売りをし、最終的にその地域の競合零細他店舗を全て廃業に追い込み、そこから自由に独占的利益を出す支配構造、物品の場合はネット社会によって「場」の制約が無くなった為にこうした操作は余り効力を発揮しなくなったが、情報そのものが支配を受けた場合はどうするかと言う問題が発生してくる。

身近なところで言うならアメリカに本社を持つ大手ネット販売会社アマゾン「Amazon」の経営手法では、日本に措ける宅配業者の配送料金を自社で設定し、その価格に従わない宅配業者は排除すると言う形式が取られているし、アマゾンのレコメンデーションA9は現在世界最先端の機能を有し、基本的に一度アマゾンの顧客になった個人の情報は家族構成や宗教哲学、思考形態、更には交友関係や職場関係までデータとして取り込まれ、アマゾンを検索すると、そうした形態に合致する商品情報がトップに出てくるようになっている。

僅か通信販売会社のアマゾンですらこうしたダークな方式が採用されているが、似たような事はヤフーや楽天でも行われている。
だが未だアマゾンが世界シェアを独占する事は無いにしても、現在の段階でほぼ独占的に市場を支配をしている情報企業が2つ存在する。

その1つは「Google」(グーグル)で有り、もう1つは「Windows」の「Microsoft」(マイクロソフト)で、いずれもアメリカの企業である。

この2社が世界の情報検索を2分しているが、例えば2010年にヤフーの検索エンジンがGoogleの提供を受けることが決まった時、日本に措ける検索の市場支配率はヤフーが47%、Googleが50%ほどだった事から、Googleが日本で占める情報検索シェアの97%を独占する事になった。

つまり日本ではマイクロソフトが締め出しを食らったのであり、マイクロソフトの言を借りるなら日本はGoogleの意図する情報しか手に入れることができなくなった訳で有り、これは言い過ぎているかも知れないが、事実「Google八分」と言うアンダーも存在し、ここではGoogleに抗する者はGoogleの検索から排除されることも有り得るのである。

検索は本来個人がその必要性に応じて自由に集まった結果そこに情報が集中し、更にはその検索エンジンの支配を受けると言うことになってしまったのであり、このシステムは「自律分散システム」である。

渡り鳥が海を渡るとき、その先頭に立つリーダーは決まっていない。

たまたま先頭に立った鳥がリーダーになるのであり、この意味では全ての鳥がリーダーの可能性を持ちながら、そこでの発生因子は自然発生であり、また継続して最初の鳥がリーダーを続けるかと言えばそうでもない。

鳥はそれぞれが個で有りながら、全体を把握した個の動きをしているのである。

Googleの検索には著作権に対する概念が甘い事、プライバシー保護規定が知る権利を超えていないなどの問題、それに得られた情報が提携先にどのように利用されているかが不透明であり、やがて市場独占比率が更に高まると、そこに発生するものは個人に対する脅威である。

Googleの言いなりにならないと何も探せない、どんな広告も出せないと言うような影の不文律が発生する可能性を我々は注意して措かねばならないだろう。

そして日本が分かっていながら大型小売店に依存し、地域の小規模零細な商店街を廃墟にしてしまったように、情報検索の分野でも分かっていながら自分ひとりくらいなら大丈夫だと思う人間が大多数を占め、最終的にはGoogleの独占を許す展開になっていくだろう。

もしかしたら或る日、全ての情報検索が有料になる日が訪れないとも限らないのだが・・・・。

この脅威に対する解決方法は簡単である。

鳥と同じように全体を意識しながら自分が検索エンジンを振り分けて使えば良いのだが、金が金の有る所に集まるように、人間がより便利なもの、時間がかからないものから離れたり、それをコントロールして利用する事はとても難しい。

残念ながら解決策は解っていながら、それを実行できずに終わるだろう。

鳥の自律分散システムは皆が何とか海を渡る為のシステムである。
ここで自分一人ぐらいは大丈夫と思った瞬間から全ての鳥は海に落ちる。

結果として人も鳥も同じなのだが、人間の文明は「権利思想」によって既に「個」と全体が乖離している事から、自律分散システムを理解できても「個」が全体の利益の為に権利や利益を放棄できない。

ここに自律分散ステムは片翼を折られた状態になり、すなわち「個」が全体を考える責任を放棄すると、自立分散システムは唯の分散、混乱になってしまうのである。

個人が検索をする事は自由である。
だがその自由によって集中を起こすと、自分等が自由意思で選択した結果の集中によって自由が制限を受ける。

これを回避する方法は、個人が全体に対する個人々々の責任を果たす以外に道は無い・・・・。

[本文は2014年6月30日、Yahooブログに掲載した記事を再掲載しています]

 

T・asada
このブログの記事は「夏未夕 漆綾」第二席下地職人「浅田 正」 (表示名T・asada)が執筆しております。