「円の戒厳令」1

世界各国の通貨、紙幣供給量は市場経済に影響を与えないよう一定の水準に保たれ、基本的には汚損したり破断、焼失などして減少して行く分を補う程度を、新規発行していく事を原則としている。

ただし、市場と民衆が蓄えている、所謂停滞している通貨に付いては、これが動かない以上、市場としてはその範囲の中であれば流出する可能性も付帯して行く為、市場に存在する通貨発行残高までを限界として、中央銀行が操作する事ができる。

日本の場合2021年末の通貨発行残高は122兆円であるから、2022年1月1日には122兆円の紙幣を印刷する事が可能なのだが、銀行も企業も個人も、銭も残らず市場で通貨を使用する事は在り得ないので、通貨の価値を下げずに紙幣供給量を増やす場合、訳20兆円規模にまでに発行量を抑制しておかないと、市場が通貨供給量が増加した事に気づいて、通貨の価値は一挙に下がって行く。

一般的、建前としてはこう言う事になっているが、各国とも通貨発行量に付いては正確に公表しない為、実は結構アバウトな事になっているのも事実であり、経済が発展していく時は通貨の量が足りなくなる為、中央銀行は市場での価値を下げない程度に通貨発行量を増やし、こうした傾向が市場で見えてくると、今度は通貨の動きを悪くして市場の通貨流通量を減らしていく。

これが金融引き締め、金利を上げると言う操作になる。

市場の通貨量操作は物理的な操作、金利に拠る操作の2種類が存在する事になるが、世界各国の中央銀行が物理的な操作を建前上嫌うのは、通貨発行量を増やす方式は財政ファイナンス化し易い為で、国債など国の債務をその中央銀行が紙幣を印刷して補う方式を採用すると、ここから抜け出すのが困難になり、気付かない内に国富、財が対外的に価値を失って行く。

特に資源や食料自給率が低い国は、理由も分からずに貧富の差が開き、貧しい層の人口が増加していく為、民衆の声は強硬になり、それに対抗する事から資源保有国、大国はブロック経済などの保守的経済政策になって行き、やがては紛争や戦争と言う事態が発生する。

こうした経験上の理由から第二次世界大戦以降、世界各国の中央銀行は政府から独立していると言う建前をして、その信用を担保してきた。

簡単に言えば、その国家の通貨信用を担保していた。

この原則を一番最初に崩し始めたのは日本だった。

バブル経済が崩壊した時、国家予算、税金で大企業を救い中小零細企業には自腹を切らせ、金額の大小は有っても同じように税金を払いながら大企業は救われ、中小零細企業は見捨てられると言う、国家としてはやってはいけない不条理をやってしまった訳だが、選択肢としてはこれ以外に道もなかった。

そして2007年、アメリカで発生したリーマンショックでは、その対応策としてこうした日本の方式が採用された。

アメリカが建前上の正義を放棄した瞬間だったが、これもやはり他に選択肢がなかった事は理解できる。

ただ、ここで2006年からアメリカの中央銀行に相当する「FRB」の議長に就任していた「ベン・バーナンキ」が提唱したヘリコプターマネー、無制限金融緩和、簡単に言えば中央銀行が政府に連動し、好きなだけ紙幣を印刷できる制度が2008年から容認されだして、ここにアメリカは1つ壊れたら、もうどうでも良い状態へと突入し、通貨の持つ信用、それまでの正義をも放棄していった。

この措置は非常事態に対応するものだった為、2年をめどに改善したら無制限金融緩和を解消する目標も採択されたが、結局アメリカが金融緩和から脱出できたのはこの14年後の2022年になっての事だった。

だが例え14年後になったとは言え、こうしてきちんと無制限金融緩和から離脱しようとする正常性は、やはりアメリカ合衆国と言える。

モルヒネを打って何とかするような経済政策から抜け出す時は、経済の失速と言う痛みも伴うが、それでも正常化を目指す精神は尊敬に値する。

この動きはヨーロッパ経済にも影響を与え、20229月にはEUのユーロも金利を上げた。

世界各国がこれまでの非常事態に区切りを付け、モルヒネから脱却を始めているのである。

だが、こうした世界的な動きの中で各国中央銀行が不思議に思っている国が在る。

日本は2012年の安倍政権から無制限金融緩和を続けているが、この際更に崩壊させて中央銀行の一般株式市場参入と言う、半ば共産主義的な暴挙もしているのだが、こうした状態が維持されたまま、2022年9月に至っても何の音沙汰もない。

「円の戒厳令」2に続く

 

T・asada
このブログの記事は「夏未夕 漆綾」第二席下地職人「浅田 正」 (表示名T・asada)が執筆しております。