「よお」

他の発音も同じ事だが、例えば「ヨ」と言う単発音は厳密には存在しない。
上に隠れた「イ」が付く「ィヨ」、下に隠れた「ウ」が存在する「ヨゥ」、「ヨォ」「ヨー」「ヨッ」「ンヨ」などの発音のバランスシートの中心に有るのが「ヨ」であり、発音的には「イオ」と「ヨ」は近似値である。

そして「イオ」や「オ」等は基本的に魚を指しているのだが、「イオ」等の発音は「ヨ」の展開図発音と言え、「ヨ」と「オ」の発音では「オ」が「ヨ」の終息発音となり、「オ」の弾み発音が「イ」となって「ヨ」を形成する。

この意味では実際の発音で、「イオ」と発音する方が楽か「イヨ」と発音する方が楽かと言えば、「イヨ」と発音する方が遥かに安易で有り、魚を指す「ウオ」の発音の以前に「イオ」や「オ」が在り、これと同時平行で「ヨォ」や「ヨゥ」が存在していた。

「ウオ」の発音は「ヨォ」などの発音よりは新しい発音で、元々は地方言語だった発音がグローバル化したものである。

この為、現在でも「イトヨ」と呼ばれる魚などに見られる、最後尾の「ヨ」などの形で、魚を「ヨ」と発音する形が残されているが、これは糸状の魚と言う意味で、漠然と魚を指す場合は「ヨゥ」や「ヨォ」と発音する言語が昭和45年前後まで日本各地に残っていた。

またこの「ヨォ」などの概念は基本的には川魚か、それに近い場所の魚を指しているが、この経緯は日本古来の魚の食習慣に起因する。
律令国家、平安期共に日本で消費される魚はフナやコイ、アユ、ウグイ、ハヤ、ジャコ(雑魚)などが一般的で、海の魚は大変貴重なものだった。

その為、魚を意味する「ヨォ」とは、その多くを川魚で概念していたのであり、貴族文化的文書記録にも、一部では「ヨォ」に近い言語が残されているが、「ヨォ」は発音言語で有った事から、庶民の口頭言語として発展したものと見る事が出来、「ヨォ」を文書化する場合、「イオ」や「オ」の方が表現として容易だったと言う事になる。

「ヨォ」が範囲する魚の概念は状況認知言語であり、「鳥」と言う言語が話の前後によって鶏となったり野鳥となったりするのと同じで、この範囲が鳥よりは少し狭い「状況を指す言葉」である。
更に「ヨォ」と言う発音が指す魚は体長20cm以下の川の小魚、しかもそれが若干群れた状態を指している場合が有る。

それゆえ「ヨォ」を最も狭く概念するなら、川で小魚の「ジャコ」と言う魚が群れている状態を指し、一般的に魚の群れの移動は全体が同じ方向に移動する形態だが、「ヨォ」が指す群れの形状は円心状のランダムである。

つまり餌を与えている、そこへ小魚が集まってきている状態を包括していると言う事で、名詞がかなり漠然とした動詞を含んでいる点は大変珍しいが、中世までの日本の言語はこうしたものが多かった。
言語や漢字、平かなが汎用性を持ち、それが整理編纂される度に、微妙なニュアンスを失ってきたのである。

幼き頃の夏の日、食べ物も傷み易く、ご飯などが変色して食べられなくなった時、祖母が「ヨォにやってこい」と言って、僅かなご飯が盛られた皿を私に渡したものだった。

私はその皿のご飯を持って、近くの川に架かる橋の真ん中に立ち、そこからご飯を下の川に落とすのだが、大体時間的にも夕方が多く、魚達もそうした事を習慣で覚えていたのだろう、橋の上に人影が立つとみんな集まってきて、落とされたご飯に集まっていた。

そしてこうした場所では釣はしなかったものだった。
誰が言うとも無く、施しをしながらそれを釣り上げる事が戒められ、小魚を余りご飯で育む豊かさがそこには存在していた。
言葉ではなく形で、姿でしか理解し得ない事が、世の中には沢山存在したものだった。

今ではこの村でも「ヨォ」と言う言葉を使う者はいなくなったが、私は時々ご飯が傷むと、子供の頃のように皿にご飯を盛って、同じように近くの橋の上からこれを落とす。
そうするとやはり昔と同じように小魚たちが集まってきて、いつしか私が橋を通ると小魚たちが集まってくるのである。

つい最近もそうして余りご飯を橋の上から落としていた時だった。

たまたま夕方のパトロールで巡回していたパトカーが私の後ろに停まり、中から警官が「生ゴミを捨てたらあかんよ~」と言うので、降りてきて下を見ろと言うと、集まった小魚達に彼は納得したように頷いたが、「人目に付かないようにやってください」とだけ言って去って行った。

「ヨォ」が「不法投棄」か・・・・。
日本がこれまでに失ったものは、結構大きかったかも知れない・・・・。

「ヨォ」と言う言葉を使うのは、もしかしたら私が日本で最後になるのかも知れない。

だが、この「ヨォ」と言う発音は「イオ」を通して、諸説ある「伊予の国」の語源になっているかも知れない事を最後に書き留めて措こうか・・・・。

[本文は2014年7月26日、Yahooブログに掲載した記事を再掲載しています]

 

T・asada
このブログの記事は「夏未夕 漆綾」第二席下地職人「浅田 正」 (表示名T・asada)が執筆しております。

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