「四輪ドリフト」

農作業の合間、煙草が無くなったので、ほんの数キロ離れた自動販売機まで、制限速度ギリギリのスピードで軽トラを走らせていたが、ふとバックミラーを見たらこの軽トラにギリギリまで車幅を詰めて来る白のトヨタ・プリウスが有り、ミラー越しに運転している者を見たら、70前後の如何にも無神経そうな団塊世界の男性だった。

通常こうした場合、大概私は道を譲るが、この日は少しだけ悪戯心が出てしまった。
私の乗っている軽トラは、一見営農サンバーと言う田舎丸出しの軽トラだが、実はスーパーチャージャー搭載の優れもので、通常よりは少し幅の広いタイヤを履いている。

ついでにこの急コーナーが連続する田舎の道路では、例えフェラーリに乗っていても、それ相応のテクニックが無ければ私には勝てないかも知れない。

おそらく軽トラの田舎のオヤジだろうと思ってギリギリまで詰めているのだろうが、そこで5速から4速にギヤダウンして、ブレーキランプを点灯させずに急激に速度を落とすと、プリウスは慌てたように急ブレーキを踏んだ様子、それを確認しながら今度はアクセルを踏み、時速80kmまで一挙にコーナーで加速でする。

更に5速にギヤを入れると、次のヘヤピンカーブではまたギヤダウンして、長靴を履いた右足を内股にしてアクセルとブレーキを同時に踏める状態にしてから、クラッチをコントロールしながら後輪を滑らせ、時速110kmですり抜けると、既に後方のプリウスは見えなくなっていた。

年寄り相手に大人気なかったかな・・・・。
私はそこから更に加速して当初予定よりはかなり早く自動販売機の前に到着してしまった。
そしてそこで煙草を買っていると、さっきのプリウスが横を通って行ったが、運転手の高齢男性はよほど悔しかったのかもしれない、私を睨みつけるようにして加速して行った。

「オッサン、警察に捕まるなよ・・・」
遅い車の後ろを走っている時、その車の後ろにどれだけ距離を詰めようが、基本的には何等解決にはならない。
むしろくっ付いていると頻繁にブレーキを踏む事になり、ブレーキパットの消耗が激しい。

ブレーキパットは通常12000円から20000円前後だから、これの前輪を交換しただけでも40000円かかり、大切に使えば5年以上使えるが、頻繁に踏んでいると1年でもブレーキの性能は落ちる。
フロントガラスいっぱいが顔で占拠されるようなオバサンならともかく、結構な年齢の男性が前の車にギリギリまでくっ付いて運転しているのでは如何にも幼く、未熟と言うものだ。

だが全国的な統計でもトヨタ・プリウスに乗っている人の運転マナーは宜しくないとの結果が出ていて、ついでに20代から50代までの運転者より、この近年は65歳以上の高齢者の運転マナーの悪さが急増していると言う調査結果も出ている。

勿論プリウスに関しては販売台数の多さに比例したものと、車の性能が良い事から無謀無神経運転になる要因も考えられるが、同じように全体的な車の運転者に占める高齢者の激増から、相対的に高齢者の運転マナーの確率悪が目立つのかも知れないが、それ以上に私が感じるのは、65歳以上の人の忍耐力が低下している傾向である。

カラオケやコンビニ、スーパーなどの従業員に対するアンケートでも、そこでトラブルになったりレジ清算待ち列の割り込み、怒鳴るなどの行為が殆ど高齢者によって引き起こされていると言われている。

少なくとも私が子供の頃の高齢者と言えば、慌てず落ち着いていて人望の有る人が多かったが、2010年を超えた頃から若年世代よりも問題を起こす傾向に有り、このどこかで忍耐や我慢する事、他人に対する配慮を欠く行為の要因は「高齢者の解放」に有るような気がする。

すなわち3世代くらいが同じ家で暮すと言う形態が減少し、核家族傾向と年金制度から相対的に高齢者へと経済的力関係が傾き、真に「家制度」から解放された状態の高齢者が、自身の抑制を出来なくなっている形が見えてくる。

それゆえ、全ての高齢者がそうだとは言わないが、こうして解放され自由になった高齢世代は僅かなストレスに対しても耐性を失い、自制が利かなくなっている傾向に有るのかも知れない。

自分が車で後ろから煽られたら不快になるだろうが、これを他人に対しては考えない。

もともとこうした運転はチンピラか田舎のヤンキー、暴走族の所業で、人生の経験を積んだ者がやる事ではなく、冒頭の話ではないが、もしトラブルになって喧嘩してもおそらく高齢者の男性は私には勝てまい、何より強い者ほど力には謙虚ではなければならない、私より遥かに先に生まれていながら、どうしてそんな事も解らないのか、それが私にとっては不思議である。

自身の自由や権利は主張し、他人のそれは蔑ろにする形は今の日本の政治の在り様、経済の在り様に全く同じである。
少子化と「高齢社会」はマクロ的にもミクロ的にも、現在もこれからから先も、やはりこの国の「最重点問題」で有り続けるだろう。

プリウスはマツダのデミオに比べれば面白味に欠けるが、それでも高性能な車である。
運転者のマナーの悪さによってこの車を嫌いだと思う人が増えないよう、マナー向上に努めて欲しいものだ。
せっかくの良い車が運転者によって、私から少しだけ嫌われたかも知れない、その事が残念な気がする。

ちなみに軽トラでの四輪ドリフトは結構難しい。
前輪と後輪の距離が近く、車輪幅も短い上に後ろが極端に軽い事からスピンし易く、転がり易い。
良い子は真似をしてはいけない・・・(笑)

[本文は2014年10月22日、Yahooブログに掲載した記事を再掲載しています]

 

T・asada
このブログの記事は「夏未夕 漆綾」第二席下地職人「浅田 正」 (表示名T・asada)が執筆しております。