「逮捕要件」

一般的に罰則が懲役3年以上と定められている犯罪を犯したと疑われる者に対し、逮捕要件が発生し、其の形態は「通常逮捕」「現行犯逮捕」「緊急逮捕」が在り、この他道路交通法違反、軽犯罪法違反の現行犯である場合、其の被疑者の氏名、居住所在地が不明であり、尚且つ逃亡の恐れが在る場合に限られ、一般市民でも被疑者を逮捕する事が許されており、これを「私人逮捕」と言う。

こうした要件に鑑みるなら、逮捕要件は事実さへ存在すれば可能のように考えてしまいがちだが、逮捕要件で最も重要な手続きは「逮捕状」であり、緊急逮捕、現行犯逮捕でも、逮捕後すぐに裁判所に対し逮捕状を請求し、これが却下された場合は即時釈放しなければならない。

また被疑者の氏名、住所が判明しており、更に逃亡や証拠隠滅の恐れが無い場合、逮捕要件は希釈になり、裁判所が認めれば被疑者の逮捕が為されない場合も存在する。

法と言うものは運用幅が存在し、其の運用の判断は犯罪現場を担当する警察庁等に負託されている部分も在るが、昨今若干疑問に感じるのは「交通事故」での逮捕である。

飲酒運転やひき逃げ、危険運転傷害、致死など明確に逃走や証拠隠滅の恐れがある場合はともかくとし、酒に酔って道路に寝ていた高齢者を轢いてしまったが、即時救済を行い、救急車を呼び、警察の到着を待っている道路交通法の過失運転者まで逮捕されるのは些か疑問を感じる。

道路交通法の被害者救済を、その報告を怠らなかった者は、逃亡の恐れもなく、現場の状況から証拠隠滅の恐れもない、免許証の提示で氏名、住所が明確になっている等、逮捕要件としては希釈な案件と言える。

それが故意ではなく、急な飛び出し、道路で寝ていた等の場合は、誰もが事故を避けられるわけではない。

過失と言う表現は人間のどれだけの能力を基準にして過失と呼ぶのかは曖昧であり、若しくは過失であったとしても、それが故意ではなく、証拠隠滅や逃亡の恐れが無い場合の逮捕には疑問を感じる。

1970年代の道路交通法違反、過失運転に措ける逮捕者は被害者が死亡した場合でも、それが飛び出しで在ったり、避けられない状態の事故の場合、逮捕されないケースも存在し、過失運転傷害の場合は殆ど逮捕されなかった。

2019年、東京豊島区東池袋で発生した高齢男性のブレーキ操作ミスに拠る母子死亡事故では、加害者の87歳の男性は逮捕されなかった。

勿論事故直後、加害者である男性も怪我を負っていた事は考慮されるが、こうした場合でも一般的には退院後、逮捕されるのが昨今の倣いだった。

しかしこの男性が元キャリア公務員だった事から、一般大衆の感情としては「特別な計らいが存在したのではないか」と言う疑惑が浮上し、ここから「上級国民」と言う特権階級の存在がまことしやかに囁かれるようになった。

確かに日本には長い官僚機構が存在する事から、特権階級の概念に近いものは存在する。

公務員同士の「忖度」は存在するが、一方で過失運転致死の加害者が80歳、高齢女性でも逮捕される現代の在り様は「法」がおかしいのではなく、それを運用する実行者の乱れが出てきている事、また善意的解釈で不逮捕にしたケースでの裏切り行為、証拠隠滅や逃亡を計る者の増加に拠って、運用が厳しくなったものと考えられる。

昔から公務員や代議士に対する忖度は存在していたが、それと同じように逮捕要件が希釈な者に対する配慮も存在した。

しかし、一般大衆の質の低下に拠って、この部分の法の適用が厳格になったものと推定され、安定し平和な社会が長く続くと、本質的変化がない事件、事故のイメージは、貧しい時代、混乱した時代よりは現代社会の方が相対的に重く感じられる。

1970年の日本と2020年の日本では、同じ事故であっても、被害者が感じるダメージは現代社会の方が大きく感じられる為、社会に適応し変化して行く法の運用は、こうした被害者意識の高まりに連動して重くなってきた背景が存在する。

そうした中で1970年代から変わらない官僚、公務員機構同志の忖度、配慮は、時代と共に変化して行った民衆が抱く命の重さと乖離して行き、ここにそれまではさほどの落差が無かった、民衆と官僚機構に対する法の運用に差異が生じてきた。

組織の中で象徴的、かつ一番厳格な形は「軍」と言えるが、この中で兵士たちが一番不満に感じる事が「差別」である。

軍律や処分の重さに対する不満は極めて少なく、それよりはむしろ他のケースと比較して著しい差が生じる事実を以て不満を感じ、これが組織の権威失墜に繋がっていく。

職業や年齢、現在の社会的地位に拠って法の運用が異なれば、法の権威は失墜し、其の法の重みはは少しずつ軽くなって行く。

今、既存の官僚機構間に存在する配慮、忖度の急激な改革が望めない場合、相対的に厳しくなっている道路交通法違反、過失傷害、過失致死の一般大衆に対する逮捕要件の緩和が望まれる。

これは裁判での量刑に対して云々の話ではなく、身柄確保時、逮捕要件が希釈な過失傷害、過失致死に関してまでも一律逮捕ではなく、其の現状に措ける情状に対し、法の運用を、少なくとも平等に見える程度には、修正して頂きたい旨を申し上げている。

警視庁、警察庁には是非とも実情に即した道路交通法過失運転傷害、同致死事故に措ける逮捕要件のガイドライン設置を希望する。

 

 

T・asada
このブログの記事は「夏未夕 漆綾」第二席下地職人「浅田 正」 (表示名T・asada)が執筆しております。