「ネットショップ○○の方から来ました」

流石に師走ともなれば1年間「まあ良いだろう」「俺は頑張った」「仕方ない事だった」と、自らの傷に絆創膏を貼って逃げてきた、その怠惰の付けが回り、朝から晩まで大忙しの状態、そこへ1本の電話がかかって来る。

「くそー、誰だこの忙しい時に電話などしてくる奴は・・・、と思いながらも、はい○○でございます。お電話有り難うございます」などとしおらしい言葉で電話に出ると、何と相手はここ10年近く出店させて頂いているネットショップ○○SE様との事だった。

「しまった、そう言えばこの1年、忙しくてネットシップ用の品を作る事が出来ず休眠状態だったが、それを叱責されるのか・・・」

一瞬そんな嫌な予感がよぎったが、意外にも其のネットショップが、契約販売店向けに高性能Wi-Fi契約を募集しているとのご案内だった。

「○○SE様が、Wi-Fiですか?」

「そうです、○○SE契約者の皆様にこうしてご案内をさせて頂いております」

「25mまで電波は届きますし、万一の場合を考えて更に接続用のWi-Fiをもう一台お付けして月額3600円です」

「しかも半年間無料、半年後には解約も自由です」

「それはお得ですね、しかし25mは短くないですか?」

「とても強力なんです」

「そうですか・・・・」

忙しさから早く電話を切りたいと言う焦り、それに僅かな契約ネットショップの放置状態に対する引け目、それが相まって「まあ、3600円くらいは仕方ないか」

で、「はい、解りました」と返事をしてしまった・・・。

程なく聞いた事もない名前の契約会社から電話がかかってきて、そこでは最初の会社が出していたネットショップ○○SEの名前が全く出て来ず、しかもWi-Fiは1台が3600円、それが2台セットでその他各種保証を付けると月額18000円との事だった。

半年間お試しキャンペーンで、其の期間が過ぎたら解約も自由で、本来なら違約金10000円なのですが、それも会社がキャッシュバックし、最初の1カ月は料金無料サービスです、との事だった。

最初の電話だと月額3600円の半年使っても無料の条件から、一挙に月額18000円になり、しかも先に払った分をキャッシュバックと言う信じられない条件変更になり、それでも実質半年無料で使えれば安いか、そう考えた私はここでも大した考えもなく「ああ、良いですよ」と言う適当な返事をしてしまう。

やがて本日仕事に関係ない3本目の電話、今度は発送会社のp社を名乗る女性が、住所と連絡先の確認を始めたが、ここに至って「何か変だな・・・」と感じた私は、「これは〇〇SE様の契約ですよね?」と言う確認をするが、相手の女性オペレーターは何故か其の返答を濁してしまい、最後はもう一度契約会社から説明させていただきますので、暫くお待ち下さいとの事だった。

程なく先ほどの契約会社の担当者から電話がかかってきて、ここで「これは〇〇SEの契約ですよね」ともう一度確認するが、担当者はわが社のWi-Fiはとても優秀ですとは言うものの、○○SEの契約だとは言わない。

どんなに優秀な機材を作っている会社の商品でも、其のファーストアポイントが、契約者の錯誤を利用したものだった場合、全ての信用は失われる。

キャッシュバックも、半年間無料も全てが覆ってしまうし、そもそも高性能Wi-Fiの電波範囲が25mと言うのも、何となく頂けず、ここですべての契約をキャンセルしたいと言うと、こちらの話も聞かずにWi-Fiの性能の良さを説明するばかりになった。

「ん・・・・、気持ちは解るが、これ以上続けると○○SEへ確認のメールを送り、消費生活苦情センターへも連絡する事になる」

「因みに電話の内容は全て録音されているから、もうこのくらいにして頂けないか」と言うと、やっと承服したのか、電話は切れた。

10年ほど前からプロバイダー契約代理店が良くやっていた手だが、「NTTをご利用されている皆様にご案内をさせて頂いております」と言われれば、田舎の高齢者や、お茶くみから掃除、電話のコールセンターまですべて自分1人でやっているような、山奥の個人事業主など、だますのは容易い。

昭和の時代には消防署の〈方から〉来ました、と言って消火剤が3分の1しか入っていない違法消火器を売りつける商売が流行し、平成ではNTTご利用の皆様にご連絡をさせて頂いております、と言う巻頭句でブロバイダー契約がさらわれ、令和に至ってはネットショップをご契約されている皆様に、ご案内をさせて頂いておりますと言って、高額高性能?なWi-Fi契約が売られている様だが、巧妙と言えばそうとも言えるが、何となく時代が変わっても芸がないような、そんな気もしてしまう。

こうした言語用法は明確に法的処分対象にはならないが、敢えて客の錯誤を誘う方法で在り、もし仮に契約会社が善良な場合は、こうしたアポイント会社を使わない方が賢明だ。

事業をする上で、組織の能力は、其の組織で一番能力のない者の能力をして上限となる。

どんな素晴らしい商品でも、其の売り方が怪しければ、商品はその怪しさの範囲を出る事が出来ない。

まあしかし、自分に落ち度がないかと言えば、かつてネットショップ運営会社から電話がかかってきた事は一度もなく、しかもこんな原始的な手にやられるとは、忙しさを言い訳にできない愚かさと言える。

自分の能力のなさを嘆くのが、正しい在り様と言えるだろう・・・。

T・asada
このブログの記事は「夏未夕 漆綾」第二席下地職人「浅田 正」 (表示名T・asada)が執筆しております。