「インフレ税」

1万円当たりの預金からの利子、解りにくければ1円でも良いが、とにかく通貨を金融機関に預けた時の利子を「名目利子率」と言い、ここで物価が上昇した場合、1万円の預金から発生する利子で買える範囲、「購買力」は名目利子率から物価上昇率を差し引いたものに減少し、この差し引かれた利率を「実質利子率」と言う。

1万円の利子が100円だとして、これで買えた駄菓子が値上がりした場合、それまで3個買えたものが2個しか買えなかったとするなら、この状態をそれ以前の状態と比較してインフレーションと呼び、しかしこのインフレーションの概念はどこかの時代の一定時期を基準としない為、拡大麻痺する概念でもある。

つまりはインフレーションが長く続けば、それが「以前の状態」と言う事になり、これによって利する者も損失を被る者も、同じ比率で以前の基準麻痺を起こしていくが、これはデフレーションも同じで、少しずつ上昇、或いは下落する場合は、社会も個人も慣れが出てきて、実際のダメージを過小評価するようになる。

全ての財物、物品が同じ比率で価格上昇を起こした時、そこで唯一価格上昇を起こさないものが「通貨」であり、インフレーションでは通貨の価値が減少し冒頭の話の通り、名目利子率から物価上昇率を差し引いたものが利子率となる為、実質の利子率は下がる事になる。

簡単に言えば金を貸している者は物価上昇率分の利子損失になり、金を借りている者は物価上昇率分の利子が軽減される効果を持つ。
この為に常に金融機関から借り入れを行っている企業などは、潜在的にインフレーションの状態を希求するのである。

また現在のように政府が通貨発行量を増やして政府支出に使っている場合、名目利子率から差し引かれる物価上昇率が時間経過と共に上昇し、実質利子率、実際に物が買える範囲が狭まる事から、民衆の購買力は物価上昇率と同じ比率の減少となる。

これはどう言う効用を持つかと言えば、政府が発行を増やした通貨の分だけ軽くなる通貨価値は、インフレーションによって民衆の所得が吸い上げられ、それを政府が使っていると言う形になっているのである。

それゆえ政府や企業はインフレーションこそが経済再生のような言い方をするが、インフレーションは実質増税であり、これに加えて日本の税制が持つ累進性では、インフレーションと共に名目賃金が上昇した場合、それに見合った税制改正を行わないと、税率が所得上昇率を上回り、基本税でも実質増税になる。

更に通貨を除く全ての財物、物品が均等に価値が上昇する事は現実には有り得ない。

一般中小企業勤労者の名目賃金が物価や社会負担の増加率に及ばない場合、または年金支給など予め上昇率の無い所得の場合はインフレーションのマイナス面しか被る部分が無く、このマイナス分が政府や企業に恩恵として渡る、いわゆる所得配分の格差拡大と、社会不安を引き起こしていくのであり、現状の日本経済は少数の大企業と政府対、多くの中小企業と年金受給者の利益対立となっている。

一方デフレーションでは物価が下がって通貨の価値が上昇する為、例えば金利が0円で有っても、物価が1%減少すれば1万円当たりの預金から発生する利子率の実質は1%の上昇となり、名目金利が0と言う事は、自宅に現金を置いていても金利が付いていく事になる。

この為デフレーション経済では金を貸している者が利する事になり、金を借りている者は物価下落率分の利子加算が発生した効用を持ち、金を借りている企業としては金利負担の上昇から返済が困難な状況が発生して来る。

この状態が「不良債権化」と言う事だったのであり、上昇していた賃金を下げなければ雇用者数は減少し、失業率が増大する現象を引き起こしていた訳である。

日本政府が行う金融緩和は今の所インフレーションのマイナス面しか現れていない。

この原因は前出の名目賃金上昇率が公費負担を含めた国民の実質支出増加率に追い付いていない事、日本企業の多くを占める中小企業が、インフレーションに拠る物価上昇で発生した民衆の購買力低下率の影響を全て被ってしまっている事、そして高齢化社会により実質支給額減少は検討されても増加が望めない、年金受給者と言う消費者の増加に拠るものである。

この事態の解決策は古くから存在する基本的な政策しかない。
つまりは税制の改正、名目賃金上昇率を税制が追い越さない程度の減税が必要なのであり、この他にも出来るだけ公費負担を増加させない努力が必要な事は、2000年も前から同じである。

適切な減税を行い、民衆の負担を軽くして政府支出を抑制する必要が有るが、日本政府はインフレーションの持つ功罪の罪の部分しか今の所使っていない。
為にインフレーションとデフレーションが混在、或いは迷った状態で社会を覆い、先が見えないのである。

ちなみにデフレーションでは、金利が下がっていても自動的に物価下落率の実質金利が発生する事から、通貨や全体利益の配分が民衆側の裁量幅に傾く、為に政府や日銀の経済コントロールが難しくなるが、インフレーションでは紙幣の発行から始まって全体利益が大企業と政府の側に傾いていく。

この事からインフレーションでは経済の裁量権が政府に集まり、デフレーションではこの裁量権が分散して民衆の側に有ると考えても良いのかも知れない。

[本文は2014年11月17日、Yahooブログに掲載した記事を再掲載しています]

 

T・asada
このブログの記事は「夏未夕 漆綾」第二席下地職人「浅田 正」 (表示名T・asada)が執筆しております。