「それは始まっている」

因果律に措ける因と果は基本的にはひとつの流れで有り、これに境界を観る事は難しい。

人間は結果を一つの独立した形として認識する場合が多いが、結果に至るまでに既に結果の60%から70%が完成されていて、結果はある種のセレモニーと言う事が出来るかも知れない。

軍事戦略で、もし完全な作戦が出来たとするなら、その作戦が出来上がった時点で既に結果は決定していて、各作戦はそれぞれが小さなイベント、そして敵地占領など目的が達成したと言う結果は、結果と言う式典にしか過ぎない。

ちょうど透明な水に赤いインクを落として行くと、最後は真っ赤な水になるが、その赤さは急激に現れるのではなく、少しずつ濃度を増して最後は真っ赤になる。
だが真っ赤になる事は赤いインクを落とし始めた時点で、既に結果に繋がる流れなのであり、赤いインクを落としながら青い水になる事は有り得ない。

この事からこうした現象を逆算的に見ていくと、赤い結果に繋がる現象が現れ始めた時から、青い水になっていく方向へとは向かわないのであり、それから以後も赤い水に向かう兆候が多く出てくる場合は、まず間違いなく赤い水になると言う事になる。

つまり赤い水の兆候は真っ赤な水に至る道程なのであり、この意味に措いては結果となる真っ赤な水は瞬間ではなく、その結果に流れる方向性の完成と言う事になり、結果を連続する近似値の集積とするなら、赤い水に至る道程全てが結果の破片と言う事が出来る。

従って赤い水の兆候は、結果の断片が既に出始めている事を意味し、連続する近似値の不均衡から赤くなる速度に変化が有るとしても、必ず最後は赤い水になる。

何の話かもう解った方もおいでかと思うが、そうギリシャのデフォルトの話で有る。
元々友人同士で金が無い時、お互いが金を都合してやり繰りしていた、その状態を町内会全体に適応したらどうなるか、結果は初めから見えていた。

同じ町内会でも資産家もいれば生活費にすら困窮している家庭も有り、ギャンブルが好きな者も居れば堅実な者も居る。
これらが統一したルールを作って、金のやり繰りを始めたらどうなるか、考えてみれば一目瞭然だろう。

ギリシャの債務不履行はヨーロッパ経済共同体が発足した時点で、もう結果は見えていた。

そして例え今の危機をしのいでも、それは連続する近似値の不均衡にしか過ぎず、最後のデフォルトは必ず訪れる。
ただ時間の問題にしか過ぎず、現実にも既に国有資産の売却が始まり、債務超過から国内で支払われる金が底をついている。

これはデフォルトが発生しているのとほぼ同じ結果をもたらしていて、尚且つ融資されるべき資金はギリシャの財務状況改善を担保としていて、この担保になる財務改善計画の逆方向の政治性を持つ政権がギリシャ国政を担っている。

ギリシャ国民の生活はもはや国内政治では担保されず、ヨーロッパ諸国が握っていると同じことで有る。
既にギリシャの現状は、債務不履行を起こした国家が被るべき現実と同じものを発生させ始めていて、ここではデフォルトは最後の形でしかない。

デフォルトは債権国に対する形で有り、ギリシャ国内では例えデフォルトに至っていてもいなくても、既にその兆候が始まり、現実にはデフォルトを起こした場合の30%程度の困窮が発生してきている。
赤い水になる最後の結果へと確実に向かっているのである。

それゆえ例えヨーロッパ共同体とギリシャが歩み寄って、今月末に返済期限の来るギリシャの債務に融資が行われたとしても、ギリシャ国内的にはデフォルトの30%ほどの苦しみが延長され、その先はデフォルトと言う苦しい状況が回避されない。

経営危機と破綻の兆候は違う。
ギリシャのそれは間違いなく破綻であり、こうして最後は破綻を迎えるなら、早い間に破綻させて再生を目指すのが経済の鉄則と言うものだ。

借金に対してちびちびと金を貸して長引かせても、その当事者の苦しみが長引くだけであり、この場合の破綻は破綻者と債権者相互に取っての解放に繋がる。
また小さな問題を避けようとするなら、その先には更に大きな問題が待ち受け、問題は放置すると先へ行けば行くほど解決が困難になる。

絶望と不安を今日も明日も続けるよりは、私なら厳しくても破綻を望むだろう。

そして日本のGDPに措ける国の債務比率はこのギリシャよりも遥かに大きく、政府はこれをのらりくらりと逃げながら財務状況の改善を全く行っていない。

バブル経済崩壊以降、我々一般大衆の暮らし向きは一向に良くならず、その苦しみが続いているのは眼前に広がる厳しい現実から逃げているからであり、この責任は日本の為政者のみならず、国民も免れるものでは無い。

現実から逃げた者は、結果として必ずその逃げた事に対する代償を求められる・・・。

[本文は2015年6月17日、Yahooブログに掲載した記事を再掲載しています]

 

T・asada
このブログの記事は「夏未夕 漆綾」第二席下地職人「浅田 正」 (表示名T・asada)が執筆しております。