「3個の低気圧」

1998年9月16日、夕方6時52分に放送された「日本放送協会」〈NHK〉の「全国の天気」と言う気象予報番組は、過去、現在を通して、NHKとしてはとても印象的な放送だった。

当時NHKでは日本気象協会の全国版の天気予報が、夕方6時52分から放送され、大体7時までの残り2、3分がローカル局の地方版天気予報に割り当てられていた。

NHKが放送する日本気象協会の全国版天気予報だから、それはそれはお堅いものだったが、1998年9月16日のそれは、当時のNHKとしては衝撃的と言うか、ある種感動を覚えたものだった。

実はこの日の前日、1998年9月15日には宮城県南部の内陸で震度4の地震が発生していて、住宅のガラスが割れたり、軽傷を負った者も存在していたが、それ程大きな地震でもなく、被害も少なかった事から、余り世間の関心を集める事はなかった。

だが、9月16日の全国版天気予報で、当時の日本気象協会、高田予報官はこの前日の地震に関し、1998年9月6日から9月14日までの1週間で、この地震の震源を3つの低気圧が通過したと、さりげなく言及し、ついでに「原因は解りませんが、地震と気象の奇妙な関係です」と締め括るのである。

後にも先にも、日本気象協会で地震と気象の因果関係に付いて、NHK全国版天気予報で言及されたのは、この1回のみである。

そもそも9月の1週間で低気圧が3個、近くを通過する事自体が稀と言えるが、JPCZ〈日本海寒帯気団収束帯〉で発生する小さな低気圧の連続体、〈カルマン渦〉は別として、れっきとした低気圧が3個同じ地点を通過する事など、そんな頻繁に起こる話ではない。

因みにJPCZ〈日本海寒帯気団収束帯〉と言う表記の仕方は2005年頃以降の事であり、こうした現象自体は知られていたが、昭和の時代には「隠れ前線」若しくは「見えない小さな低気圧」と言う形で解説される事が在ったものの、具体的な現象が細かく解説される事はなかった。

2023年1月30日に日本海で発生した低気圧が、同日太平洋側へ抜け発達するが、以降1周間以内にもう2個の低気圧が北緯38度から43度、東経138度から144度の間を通過し、もしかしたらこの3つの低気圧が共通して通過する地点が発生するかも知れない。

この緯度は秋田県北部から北海道南部、東経は奥尻島東部から歯舞諸島付近までの範囲で在り、もし低気圧が重なるとしたら津軽、北海道南東部の海域で在り、地震が発生するとしたら、3個目の低気圧が通過後の翌日と言う事になる。

2023年2月6日、7日は一応、こうした事を頭に入れて措いて頂ければと思う。

たった1回の事例で次も同じ事が発生するか否かは解らないし、9月と1月では気象環境も異なる。

9月に低気圧が近似して発生する事は少ないが、1月では比較的発生し易い環境でもある。

だが、気象図と震源をしっかり検証してみて、その結果を、一つ言い方を間違えれば首が飛ぶかも知れないリスクを冒してまでも、全国版天気予報に織り込んだ高田予報官の研究心、情熱は賞賛に資するものであり、たった1回の事例で検証も出来てはいないが、後世に残すべき重要な事例として、私は記録、伝承したいと思う。

「1週間で低気圧が3個、同じところを通ったら、そこが震源」

2月6日、7日、東北北部、北海道南部にお住いの方々、降雪や吹雪の影響も大変だとは思いますが、それが終わっても2、3日は地震にお気を付け下さい。

T・asada
このブログの記事は「夏未夕 漆綾」第二席下地職人「浅田 正」 (表示名T・asada)が執筆しております。