「所得の概念」

決して存在する事の無い「絶対価値」を仮定して需要と供給、そして所得との関係を見るなら、例えば景気が良くなって賃金が上昇した場合は「貨幣に拠る所得の上昇」が発生し、世の中の物価が下落して行った場合「需要に拠る所得の上昇」が発生する。

1本100円のネギを買う時、支給された賃金が前月比1%の上昇だったとすると、所得に占められるネギに対する支出割合は、賃金が上昇した比率に応じて低下し、反対に賃金の上昇が無くてもネギの価格が対前月比1%下落すれば、ネギに対する所得からの支出割合は賃金が1%上昇した時と同じ効果を持つ。

前者のケースがインフレーション、後者はデフレーションなのだが、インフレーションに拠る物価の上昇と賃金の上昇にはタイムラグが存在し、賃金の上昇は物価高騰を追いかける傾向を持つ。
この為に一般家庭の消費支出は常に物価上昇分だけ、現実には所得を下落させる効果を持ち、一般消費者には毎月「苦しい」と言う状況が発生する。

一方物価が下落して行く場合、今度は賃金の下落が物価の下落を追いかける傾向になる為、実質の家計は毎月物価下落分だけ所得を増加させる効果を持つ。

しかし需要は全てが物品の購入に費やされるのではなく、公費負担や教育費用、金融不動産などの資産に分散される事から、消費支出者の所得は「貨幣に拠る所得の上昇」と「需要に拠る所得の上昇」或いはこれらの所得の下落などが入り乱れた状態となり、所得に対して絶対に消費しなければならない物品の購入、エンゲル係数の物品需要が占める割合の低い社会では、どうしても貨幣に拠る所得の上昇に憧れるマインドが存在する。

この他に解り易い例で言うなら非ジェネリック医薬品に対する新薬などの例で、企業の生産努力に拠る等価製品の品質の向上、食品の安全性の確保なども、これに拠って価格の上昇がなければ広義では所得の上昇と言えなくも無いが、現実には理論上の話かも知れない。

そして消費需要はその社会を構成する年齢人口の推移に拠っても大きく異なる。
これから子供を育て、家も買って車も欲しいと思う若い世代のマインドは必ずインフレーション傾向に有るが、片やこれが高齢者だと、大きな需要は全て終了している。

また冒頭の「貨幣による所得」と「需要に拠る所得」でも解るとおり、「貨幣に拠る所得上昇」が見込めない者、年金受給者や公務員などの公的予算からの所得者では、インフレマインドの逆のマインド、所得は増えないのだから物価が下がって欲しい、或いは消費抑制と言うデフレマインドが潜在的に存在する。

日本のような高齢化社会は基本的に潜在的デフレマインド、または現実的デフレマインドが常に若い世代のインフレマインドを押し下げる効果を持ち、これが既にデフレマインドに呑込まれた状態になっている為、結婚や出産、それから後子供を育てるなどの需要条件に絶望感を与えている。

日本の現在のインフレーション政策は、デフレマインドの高齢化社会を支える為のターゲットインフレーションであり、基本的には若い世代が持つ潜在的インフレーションマインドを満たすことが出来ない。

むしろこのインフレーションが「エサ」で有る事を肌で感じるから結婚や出産、育児がリスクに転じてしまうのである。

更に需要と供給の関係に措いて、価格を下げれば需要は増加するが、この点では等価格であれば品質の向上も実質値下げとなるものの、年金受給者とこれを介護する職業が大きな割合を占める日本社会では、どうしても消費は抑制され、こうした企業努力による需要曲線は曲線の角度が浅くなる。

企業努力に拠る需要の増加比率が低いので有る。

需要と供給、それに価格には必ず接点が存在し、その接点は市場に影響を与えない消費者、つまりは市場価格の変動を所得に実感できる一般消費者と、市場価格に忠実な企業と言う事になるが、これらの者を「価格受容者」(プライス・テイカー)と言い、これらの者によって構成される市場を「完全市場」と呼ぶが、現実には有り得ない。

社会には消費を部分独占に出来る者も、供給や需要を部分独占できる者も当然存在し、企業はこうした状態を目指して発展しようと考え、消費は政治や団体、或いは企業に拠っても需要の独占(例えば大型販売店などが該当するが)によって現実の消費独占を目指す傾向を持ち、これらの企業に株式市場が影響を与えている。

国債や非課税株式取引商品の多くは銀行が買い、それを更に買う市場は潤沢な資金を持つ高齢者と言う現実は、ターゲットインフレーションを目指して供給された紙幣の多くが若年層に回らず、為にインフレーションマインドに絶望感を与え、余剰資金が更に株式市場に流れ、現実の物品取り引きには資金が流通していない。

むしろ株式市場に引っ張られ、物品市場が抑制を受けている状態かも知れない。

需要の無い企業や高齢者に資金が回り、この資金の出所が現在一生懸命働いて子育てをしている若年層世代、または子供を大学に出して家やマンションのローンを払っている労働世代から、租税、間接税、インフレーションに拠る物価上昇で政府に集められた金と言う現実は、第三国で幼い娘を売春宿で働かせて、それで生活している親と何等変わらない在り様にしか私には見えない。

日本のターゲットインフレに関して、アメリカ連邦準備機構(FRB)が有効だと発言する背景は、アメリカにいても日本が実感できないからで、実は6割の潜在的・現実的デフレマインドを、2割や3割のインフレーションマインドで包んでも、包装紙の中でその包装紙に費やされた分が確実に壊れて行く事が忘れられている。

市場に「完全市場」は有り得ない。
しかし株式市場はこうした本来の市場が目指す「完全市場」の概念と相反する方向のものである。

昔から世の中が悪くなり、遊んでいる人間が増えると賭け事が流行ってくると言われているが、株式市況の活性化の後に来るバブル経済の崩壊に鑑みるなら、今も昔も人の在り様と言うのは何等進展していないものなのかも知れない・・・。

[本文は2015年7月1日、Yahooブログに掲載した記事を再掲載しています]

 

T・asada
このブログの記事は「夏未夕 漆綾」第二席下地職人「浅田 正」 (表示名T・asada)が執筆しております。