「小さな傘」

Trans-Pacific-Partnersip(環太平洋パートナーシップ)、所謂TPPの始まりは「環太平洋戦略的経済連携協定」(Ecornomic-Partnersip-Agreement)、EPAであり、ニュージーランド、シンガポール、チリ、ブルネイの4カ国自由貿易協定が原則の拡大会議となっている。

TPPに参加している日本ではその関心の高さから、こうした協定がまるで国際的な潮流のように感じるかも知れないが、これは実質アジアのブロック経済政策の意味合いを持つ。
台頭してくる中国の相対的発言力を恐れたアメリカは、中国の権益拡大阻止の観点からこうしたローカル自由貿易協定に参加し、自国の権益確保を図った。

更にこうしたローカル協定に日本を巻き込んだ背景には、どうにも理解できない日本の流通制度の煩雑性、過剰なまでの細かい基準に拠って守られている日本の貿易障壁、これをTPPに拠って撤廃させる目的が有ったが、もう一つ重大な意味合いが存在していた。
それは経済制度に拠る中国共産党の攻撃である。

経済的に台頭してくる中国の経済は共産党が支配する統制経済である為、自由貿易協定に参加する為には自由貿易協定に順ずるフレームに参加する必要が出てくる。
自由貿易の原則は公平で公開された基準を必要とし、この意味では共産党支配経済が自由貿易協定に参加する為には共産党支配経済の脱却、会計制度の公開が必要になってくる。

つまり中国がTPPに参加するには共産主義を辞めてしまわない限り不可能なのであり、アメリカは自由貿易協定に拠って中国の思想崩壊とアジア経済からの締め出しを画策し、尚且つTPP全参加国の合計国内総生産(GDP)の90%を日本とアメリカで占めながら、発足4カ国の拡大会議と言う立場を守っている。

TPP参加国全体総生産の90%を独占する日本とアメリカと言う性質は、実質上日本とアメリカの2国間FTA(貿易協定)に等しいが、これがTPP発足当初のローカル協定と言う傘の下に入っている。
初めから傘より大きな人間が2人も小さな傘に入ったおかげで傘が大きくなり、でもこの傘の持ち主は元の人のものですよ、と言う事なのである。

アメリカ国防総省戦略会議(仮称・正式名称は非公開)は合衆国の国家戦略に措ける経済分野の戦略に関連してTPPは有益である事をレポートしているし、場合に拠っては当初の発足4カ国の背後には初めから合衆国の影が存在していた可能性がある。
アメリカ日本が主導したのでは当然中国は反発するし、アジア戦略と取られかねない、しかし第三国のローカル協定に対して中国は反発できない。

これが小さな傘に入った大きな協定なのである。

中国は共産党支配体制を辞めない限りTPPに参加できない。
そこで内政不干渉が原則のIMF(国際通貨基金)での地位向上を目指したが、 確かに通貨では国際市場に中国の通貨「元」を認めさせる事は成功したものの、ここでも内政は不干渉だが会計手続き上での透明性や公開を巡っていずれ中国は共産党支配経済を放棄するか、或いはそれを守って対立するかの選択が訪れる。

また中国主導の「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)の設立も、こうしたTPPの影響の大きさに比例して実現したものである。
当初合衆国は日本のTPP入りには消極的だった。

包括協議はまずまとまらないだろうとの思惑からだったが、実際は「甘利明」経済担当相の岩の隙間を這う清水のような粘り強さだった。

中国がAIIBの設立を急いだ背景には、日本のTPP包括協議合意に向けた速度を意識したものでも有ったのだが、こうして発足したAIIBは腐敗と汚職の温床である中国共産党支配である。
中国人民元の価値はいずれの時期かに拠って確実に共産党自身が崩壊させる時期がやってくる。

AIIBの発行する債券の格付けは「無」であり、これは何を意味するかと言えばリターンはおろかリスクも全て闇の中と言う事である。

全て中国共産党支配と言う人民元を担保するものは全く無い状態で、誰がその債権を引き受けるのかと言う問題は、中国が統制経済から脱却するか、それとも中国が全世界を支配するかのどちらかの選択しか最終合意が無い話なのである。

アメリカ合衆国は中国との直接的軍事衝突のリスクを考え、経済に拠って中国の開放を目指してきたのであり、その一環がTPPだった側面を持っている。

日本のTPP参加は経済の相対性、自国農産物などと自動車などの輸出収益の比較から輸出尊重に動かざるを得ない事情に因を持つが、世界的な視野ではアジアが経済的にブロック化する事を阻止し、そして中国を追い詰めるアメリカの戦略でも有る事を理解しなければならず、この意味では日本の積極的なTPP包括合意に向けた努力は、自由主義経済に措いて大きな意味を持っていると言える。

来年から田んぼの耕作面積を大幅に減らす事にした私のところへ、珍しく中山間地水田補助金事業の会長がやってきて来た。
「環境の為にも、里山保全の意味でも、若い人には田んぼをしていて欲しいのだが」

と言う事だったが、年金を貰って補助金で米を作る。
一体いつの時代に環境や自然の為に米を作った時代が有っただろう。
生活の為、生きていく為にみんな米を作ってきたのではなかったのか、環境の為に米を作れるほど私は優雅ではない。
「日本の農業を壊すのはTPPでも政府でもない、お前らだ」

そう言いたかったが、私は黙って下を向き、そして「やって行けないので・・・」と答えた・・・。

[本文は2015年12月11日、Yahooブログに掲載した記事を再掲載しています]

 

T・asada
このブログの記事は「夏未夕 漆綾」第二席下地職人「浅田 正」 (表示名T・asada)が執筆しております。