「地震と地鳴りの因果律」

古来「雷が多い年は地震が多い」とされる文献が多く残されているが、例えば楠正成(くすのき・まさしげ)が使っていたと言われている「通機図解」、これは雲の形から地震を予測する方法だが、この予測の多くには「この雲を見たら大きな地震か雷が発生する」と言う記述が多い。

早朝に見たら午後2時頃に注意せよと言う具体的な時間まで予測されながら、しかし地震と雷の区別が為されないのは、近代に至るまで地震と雷を区別する概念が普及していなかった事に起因する。

大きな雷だと実際に木造の粗末な家屋には震度4くらいの揺れを感じる事が有り、こうした背景から雷の多い年は地震が多いとされたのだが、一方こうした伝承が多いと言う事は地震発生と「音」の関係が深かった事をも意味している。

日本で始めて地震と言う言葉が出てくるのは鎌倉時代の「いせこよみ」の表紙挿絵だが、ここでは「地震の虫」と言う表現が為されているものの、平安時代の地震の記録は「大雷」とされているものが圧倒的に多く、この事からしても地震発生の前後には遠くで雷が鳴っているような音、或いは地鳴りのような音が頻繁に前兆現象として存在したものと推定される。

また古文書や近代、現代の記録でも地震発生の前に感じた異常の記録を調査すると、その筆頭は「異常な高温」だが、これに匹敵するものとして地震発生前の「音」が有り、これは殆どの大地震の前に発生している前兆現象と言え、その多くは直近の大地震の前兆現象と言えるが、巨大な音が頻繁に使われる現代社会では、どの音が地震発生前に発生している音なのかが判別しにくい。

飛行機や戦闘機の加速音、花火、隕石の突入音、雷、そして火山噴火に伴う「空気振動音」、大まかにはこうした現象発生音と地震の前兆現象としての音の区別はとても難しいが、こうした中で地震の前兆現象と他の理由による発生音との決定的な違いは「継続性」と言える。

飛行機などの加速音は通常5分ほどの間に1回から3回、強弱を伴った振動と雷のような音が発生するが、10分以上続くものは存在しない。
花火などは後に情報を確認すれば判別できるし、雷なども気象図から可能性を予測できる。

隕石の突入音は通常1回の「ドーン」と言う音だが、火山噴火に伴う空気振動は「ドーン」と言う音が不定期に数回発生する場合が有り、これはとても大きな音なのだが、実際の火山噴火は音が聞こえた場所から場合に拠っては500km以上も離れている場合が多い。

そして巨大地震が発生する前の異常音に関しては、古来から現代までの巨大地震の前兆現象として、殆ど全ての地震の前には異常音が聞かれたと言う記録が存在する。

安政江戸地震、ここでは「ゴー」と言う地鳴りのような音が続き、同じ音は南海地震や1923年の関東大震災でも多く記録に残されていて、同様に雷のような「ドーン」と言う音を聞いたという記録もとても多い。

1993年7月に発生した北海道南西沖地震など、その聞き取り調査が実施された地震の殆どで聞かれたのが「ゴー」と言う地鳴りのような音と、雷のような「ドーン」と言うだが、こうした音には一様に継続性が見られる。

つまり「ゴー」と言う音の場合には、少なくとも5分以上の連続性が有り、場合に拠っては数日続く事が有り、雷のようなドーンと言う音も定期的に連続する点にある。

関東大震災の時、井戸を掘っていた職人が穴の中で「ゴー」と言う音を聞き始めるのは午前10くらいからで、この音は息をするように強弱を持ちながら連続する。
これに恐れを為して職人が穴掘りを辞めるのは午前11時、その1時間後に関東大震災が発生する。

北海道南西沖地震では海岸に立っていると風もないのに遠くから「ゴー」と言う音が聞こえ、この音は1ヶ月間、聞こえたり聞こえなくなりしながら、北海道南西沖地震発生まで続く。

しかし、こうした「ゴー」と言う音の場合はその多くが大地震直近の現象であり、例えば地下鉄の駅構内でこうした音が聞かれた場合は、早ければ5秒以内に地震が発生する可能性も有る。

また雷のような「ドーン」と言う音はどの地震でも前兆現象としての記録や報告が残っているが、例えば関東大震災のおりの記録では、毎日大砲のように定期的にドーン、ドーンと言う音が1週間続き、同様の報告は北海道南西沖地震や能登半島地震でも聞かれ、そのいずれもが一定の時間を置いて連続することが知られている。

地震の前兆現象は「呪いの人形」に同じである。
見ている人の目の前で着物の裾が揺れる呪いの人形の裾は、風で揺れているのか気温差なのか、それとも呪いなのかは判別できない。

地震は風や気温差と言う物理的説明の付く原因に混じる非科学的な呪いのようなものである。

高い気温、季節はずれに咲く桜やツツジ、原因不明の衝撃音、これらは通常の自然摂理でも発生するちょっと奇妙な異常であり、これだけをして何か大きな地震が発生すると言う事ではないかも知れないが、これらの何か変だと言う現象が重なってくる場合は、その先に何か変だが集積したものがやってくる事を想像するのは決して悪い事ではない。

東京では昨年12月26日、火山性微動のような連続する微震が観測されている。
それにこうした高温状態と2016年1月5日に多く報告された「地鳴り音」に鑑みるなら、古来から言い伝えられている「大地震」の予兆が揃い始めているのではないか・・・・。

ちなみにこうした前兆現象は、その現象が収まってから地震発生となる場合が多い。
地鳴りのような音が止まってから、高温傾向が収まってから巨大地震がやってくる例が多いように私は感じる。

それと、こうした前兆現象はひずみモーメントの初期にも発生し易い事から、前兆現象が発生して実際に地震が発生する確率はほぼ3割である。
これは例えばコンクリートの板を割るとき、1回では割れずにそれが蓄積された状態で初めて崩壊する様相に同じで、前兆現象はこうした崩壊初期から発生する為、前兆現象をして間違いなく地震が発生するとは言えないかも知れない。

しかし多くの異常が重なった場合は注意が必要と言う事であり、アカデミックが地震発生前の音と地震との因果関係を認めにくい事情は理解できるが、これを否定するのは如何なものかと思う。
1月5日の関東での地鳴りに関して、東海大学地震研究センターの長尾年添教授は「日本で地鳴りを研究している人を聞いたことが無い」としているが、本当にそうだろうか。

古来から文献に残そうとした多くの人の情熱は何なのだろうか。

私はかつて何人もの人がこうした研究をしていた事を知っているし、そも位相幾何学では曖昧な答えも現実となって来ている今日、気象予測では既に広く民間からの情報を元に局地予測が為されている宏観性予測が用いられている中で、自身が知らないからそれを認めない、アカデミックだけで何とかしようと言う、そうした精神こそが科学の可能性を閉ざしているのではないかと、思う。

抗議しておく。

[本文は2016年1月8日、Yahooブログに掲載した記事を再掲載しています]

 

T・asada
このブログの記事は「夏未夕 漆綾」第二席下地職人「浅田 正」 (表示名T・asada)が執筆しております。