「1000円札」

物質は一般的に「化学統合」の形式でエネルギーを保存している。
つまりその瞬間ごとに他と反応しながら存在する事から、そのエネルギーの絶対値がどれだけで有るかは決定することができない。
物質の持つエネルギーは「自己」と「他」のその時の状態に有って、これが単体の状態を基準にしたなら、その状態と他の状態のエネルギーの増減は、反応熱の変化によって知ることができ、物質が化学変化を起こす時は必ず熱の出入りが存在する。
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黒鉛1mol(モル)を酸素の中で完全燃焼させ二酸化炭素とする場合、394kJ(キロジュール)の熱量が発生するが、こうして反応によって熱が発生する場合の反応を「発熱反応」と言い、この逆で燃えて真っ赤になった黒鉛に水蒸気をかけると、黒鉛1mol中131kJの熱量を吸収して一酸化炭素と水素が発生し、このように熱を吸収して進行する反応を「吸熱反応」と言う。
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ちなみに「J(ジュール)と言う単位は国際単位系「SI」で用いられるエネルギー単位で、物体に1N(ニュートン)の力が作用していて、その力の方向に1m動かす時、その力がした仕事を指し、「1Nm」が1Jである。
また14・5度の純粋な水を15・5度にまで上昇させる為に必要な熱量を1calと言い、1kcalは1000calの事になるが、これをJ(ジュール)に換算すると1calは4・184J(ジュール)になる。
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物質は勿論化学統合だけでエネルギーを保存している訳ではないが、例えば分子間相互作用や分子の熱運動でもエネルギーは保存されているものの、これらのエネルギーは化学統合エネルギーよりは遥かに小さく、物質は高いところから低い所へ落下して行き、自然界にこの逆変化は存在しない。
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位置によるエネルギーは高い所(位置エネルギーが大きい)から低い所(位置エネルギーが小さい)所へ、熱エネルギーは高熱状態(熱エネルギーが大きい)から低温状態(熱エネルギーが小さい)と言う具合に、自然界で起こる変化は常にエネルギーの高い状態から、エネルギーの低い状態へと変化していく原則を持っている。
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これは言い換えるなら高温や高い状態という「不安定な状態」から低温や低い状態という「安定した状態」へ向かっていると言う事であり、こうした事を考えるなら生成物のエネルギーが低い方向へ進行していく「発熱反応」は自発的な進行になり易いが、反対に生成物のエネルギーが高まっていく「吸熱反応」は進行しにくくなる。
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「吸熱反応」は何らかの手が加わらねば進行しない。
だが反応熱の絶対値が小さい場合、自発的に「吸熱反応」が進行する場合が有る。
これはどうしてか、実は物質の変化はエネルギーの変化によってのみ発生するのでは無いことを、この現実は示している。
物質を構成している素粒子もまた微小ながら熱運動をしている事から、物質はその散らばり具合の小さい所から、散らばり具合の大きな所へと動いているのであり、この場合の「散らばり具合」は「密度」では無く「乱雑さ」を指している。
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面白い事だが物質はそれがある程度統合された「物質」と言うマクロでは安定へ動き、反対に物質を構成する分子や素粒子の単位では「乱雑」と言う方向に動いている訳で、考えようによっては物質は熱を滞留させておく容器の側面と、混沌と秩序が同時進行で壊され作られながら動いている性質を持っている事になる。
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ところで今日は私の住んでいるところは、朝から雷が鳴り響き冷たい雨が降っているが、何故か急に初めて自分の車を買った時の事を思い出した。
丁度こんな季節だったか、それまで乗っていた叔父さんから貰ったスバルの軽四が壊れ、仕方なく買ったシビックに乗り換えて間もないころ、晩飯代わりにパンを買おうと思って入った町の小さな雑貨屋で、私はまだ生まれて間もない子供を抱いた若い母親から、出て行き際に声をかけられた。
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「済みませんが、お忙しいですか」
私と大して年が違わない母親は申し訳なさそうに訪ねたが、そんなに緊急なこともなかった私は「いえ、後は家に帰るだけですから」と答えた。
するとその母親はは更に申し訳なさそうな顔で、「すみませんが、お金は払いますから家まで送ってもらえませんか」と私に尋ねたのだった。
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店の前で車を止めて降りてきている訳だから、私が車に乗ってきている事は分かっているだろうし、おまけに外は冷たい雨で、おそらく5時30分は過ぎていただろう、辺りは完全に暗くなっていた。
「ああ、いいですよ」と私は答えてパンの入った袋を持って、その母親を後部座席に乗せた。
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母親の家は商店街から1km程も離れたところだったか、指示どおり運転して5分もかからないところに有ったが、彼女は家に着くとまず子供を中にいた、おそらく子供にしたら祖母になるのだろうか、その人に渡すと、既に帰ろうとギアを入れていた私のところまで戻って来て、何度も有難うと言い、財布から1000円札を取り出して私に差し出した。
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「お金はいいですから、それにタクシーでは無いので・・・」
私はそう答えたが、母親はどうしても受け取って欲しいと言って聞かなかった。
1000円札の上にパラパラ雨が振ってきて、あっと言う間にそれはしおれて行った。
その様を見て、母親もまた傘も差していなかった事から、私は「じゃ、遠慮なく」と言って金を受け取り、家路についた。
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そう言えばあの1000円は何に使ったのだろう・・・。
物質の話を書いていながらどうしてこんな事を急に強く思い出すのか自分でも分からないが、それほど大した事でもなく、既に母親の顔すら思い出せないのに、何故か雨に濡れていく1000円札だけしっかり記憶に残っている。
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Me voy a mudar, y la destrucción y la creación..
「創り、壊し、そして動いている」

 

T・asada
このブログの記事は「夏未夕 漆綾」第二席下地職人「浅田 正」 (表示名T・asada)が執筆しております。

2件のコメント

  1. 釣り友に、熱量計に通じている人が居て、沖釣りをしていると、あそこの(高炉のある製鉄所)、原料のサンプリングプラントを設計したのは俺だ~~♪とか言って居ました。製鉄所は24時間稼働で数年間止める事なく、運転していて、その制御の一貫で、それぞれの船腹で運ばれてきた原料の熱量を常に計測しているとのことでした。独立した、小型の機材は数十万円で食品の袋に書いてある熱量はそんな機械で計って居るんだよ~~♪
    身体に入っていったら、その熱量なのだけれど、消費の仕方が違うから、単純に多いから太るとか、そう言う事じゃないらしいです。
    話変わって、今まで政府やその他バラマキで、自分のリスクや労働以外で得た、あぶく銭は、自分の戒めのために、全て~~医師団とか~~基金というNPO等に寄付してきました。厳密に言えば給付金は税金の還元ですから、自分の労働に基づいて居るのでしょうが、予期せぬ物なので。NHKが月¥50安くするとか、事務経費を考えない、お馬○ちゃん政策が多いように、人は目の前の利益に幻惑されやすい。
    自分の概ね週一の粗食の日は兎も角、どっかの学校では、名前は忘れましたが、”祖弁当”の日が有って、粗食をして節約&共感をして、物を考える様にすれば良かろうと思いますが、保育園が足りないの理由は兎も角、お爺ちゃん、お婆ちゃんが、建設反対の急先鋒らしい、その内、老人ホームに入るときに、拡充反対とか言われて因果が巡りそうですが(笑い)

    1. ハシビロコウさま、有り難うございます。

      少年の頃、進化と言うのは素晴らしいものになって行く事だと思っていたのですが、どうもこうして地球物理学的に考えてみると、進化とはある種の側面では劣化の事を指していたかも知れませんね。熱エネルギーは変化を繰り返す度にどんどん使いにくいエネルギーになって行く事を考えるなら、人間も生まれてくる度に前よりは扱いしにくいものになって行くのだろうと思います。合衆国の次期大統領を見ても、トヨタプリウスを見ても、カジノ法案高速採決を見ても、日本はもう金のためなら何だって有りなんだなと言う感じになってきました。
      しかしため息を付いていても何も変わらない。世に光の差すように自分が出来る事を考えなければと思います。
      師走に入り一挙に慌しい感じがしてきまして、ついでに能登のこの季節らしい激しい落雷と急な強風、横殴りの冷たい雨や霰、さあいよいよ冬を迎えるぞ、と言う感じで気が引き締まる様な思いがします。
      そして冬来たりなば、春は遠からず・・・。
      この春を思って耐えている感じがまた、どこかで力を感じてくるから不思議です。

      コメント、有り難うございました。

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