「星が山へ帰る」

さてこの日差しは梅雨の僅かな隙間か、それとも確かな夏の訪れか、いかようにも見える青空の下を、かなりの年配と見受けられる婦人が巾着袋と一緒に花束を持って坂道を行く姿があり、そうした婦人の後姿に幾ばくかの申し訳ない気持ちを感...

「避  諱」 (hiki)

おそらく20代もほんの前半の頃だったと記憶しているが、私は同じ年代の女性から一通の手紙を貰ったことがあって、その手紙を読んで大変衝撃を受けたことがあった。 何とその手紙には「私」と言う言葉が一箇所も出てこないのであり、そ...

「夏の無言電話」

もう15年も前くらいだろうか、祖母が死ぬ数年前の頃のことだった。 毎年お盆の少し前、8月11日か12になると家へ1本の無言電話がかかって来た。 電話がなって出るのだが、何も言わない、そうかと思えばすぐ切る訳でもない、何度...

「予定運命」

「イモリ」の主要な器官が形成される時、一般的に両生類は同じ傾向を辿るが、原腸胚から神経胚、尾芽胚という順序を持っている。 特定の器官形成時、その器官に分化していく細胞群が現れるが、この細胞群のことを「原基」と言い、あらゆ...