「流通の循環」・Ⅰ

「individual purchasing」、つまり個別世帯配送と言う形態と、流通輸送業界が行っている個人宅配との区別は、前者が顧客相手なのに対して、後者は不特定多数の暫定客だと言う点にあるが、既にこの区分は事実上流通宅配業界の中に「individual purchasing」が組み入れられた形態となりつつある。

「individual purchasing」とは簡単に言えば共同購入のことであり、「消費生活協同合」、いわゆる「生協」が行っている拡大サービスのことだが、従来「生協」が行っていたサービスは、3人から6人が共同で食料品などを購入するためのシステムだった。

このシステムの利点は運営主体である「生協」が無店舗展開であること、消費者が直接購入の為に移動する必要が無く、しかも個人配達ではない事から、流通、消費者相互に取ってぎりぎりのところで譲歩しあった効率性の高さがあった。

しかし近年の日本人の生活形態の変化、すなわち共働き家庭、単身世帯者、高齢者世帯の増加によって、少人数共同購入の形態を維持することが困難になってきたことから、「生協」では2005年頃から「個人宅配」のサービスを開始したが、このサービスは首都圏や他の大都市圏、近畿圏を中心に次第に増加し始め、現在では「生協」の無店舗供給総量の5分の2が、この「個人宅配サービス」となっている。

この動きは2005年9月、当時の東京マイコープ、神奈川ゆめコープなど、10の生活共同組合で構成される「生活協同組合連合会首都圏コープ事業連合」が、「パルシステム連合会」と名称を変更した時期から始まり、オーガニック食品等の生産者との共同開発、インターネット販売やチケット販売、福祉共済事業(保険)などの事業展開を始めた時期から、急速にその販売額を伸ばしていった。

しかしその一方、「生協」本来の目的である、「安全なものを生活者の立場から安く買いたい」と言う設立思想は、こうした展開によって完全に消失してしまい、「生協」は今や一つの流通業者としての位置づけになりつつあり、このことが事実上他の流通宅配業者との競争へと発展しているのである。

それゆえこれまで「生協」は各都道府県単位がその運営限界だったが、これが規制緩和などによって全国組織になった場合、「生協」と言う新たな宅配企業の出現になる可能性は否定できない。

日本の流通、販売は長期的に見れば凡そ3つの形態に変遷して行くことだろう。

一つは若い世代や働く世代が利用する「イベント性の強い大型小売販売」、これは車の移動が可能な世代によって、週末や労働時間外に利用される事になるが、その労働時間外の時間と言う性質は、商品の多様性と販売規模の大きさを求め、またより高いイベント性が求められて行くことだろう。

そしてもう一つの小売販売は、コンビニエンスストアーよりも更に細分化された、小規模小売店の必要性である。

これは時代に逆行する形のように見えるかも知れないが、その実高齢者世帯の増加を鑑みるなら、例えば30軒から40軒の住宅に対して一箇所、簡易コンビニエンスストアーのような形態を持つ小売店があれば、日常雑貨や簡単なものはそこで消費されたり、取り寄せ商品の扱いを行える消費が存在するだろう。

その上で、これらの消費形態の最上階に君臨する事になるのが、「個人宅配」と言う事になるが、例えば現在でも10gのお米を買って、それをマンション4階の自宅まで運ぶとなれば大変な労力であり、これを宅配業者に委託すれば、自宅まで届けられる事になる。

だから地方の米の販売、大きな野菜の販売などは、これから無店舗でも消費者に認知して貰えれば、都会のスーパーと同じような商機を持っているのである。

またこうしたことを考えるなら、これからのスーパーは、配送と言うサービスを自社で完備し、それで販売を拡大することになるかも知れないし、宅配業者との事業提携と言う方法もあるだろう。

しかしいずれにしてもこうしたことを鑑みるとき、その根底には経済の安定と、消費し易い環境が最重点課題となるのは間違いなく、実に国民総生産「GNP」の60%が消費によって発生している日本経済を考えるなら、現行の経済対策は消費税の増税では無く、期限付きの消費税撤廃であることは、経済学者でなくとも明白な事実と言える。

「流通の循環」・Ⅱに続く

[本文は2011年1月15日、Yahooブログに掲載した記事を再掲載しています]

T・asada
このブログの記事は「夏未夕 漆綾」第二席下地職人「浅田 正」 (表示名T・asada)が執筆しております。