「核兵器」

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                            1998 3 10 撮影

科学の発展に最も寄与するのは「戦争」だと言われる。
そしてその科学を最大限利用し、人類はより効率の良い殺傷方法を考えてきたが、現代文明はこうした「戦争」がもたらす、科学の発展によって支えられてきたのもまた、事の理である。
そして現在人類が所有する最も効率の良い殺傷兵器は「核爆弾」であり、この核爆弾によって現実に被害を被ったのは日本、広島と長崎であり、彼らは全く一瞬にしてその全てを失い、その地域は広く廃墟と化してしまった。

だがこうして核爆弾の歴史を鑑みるに、核は使われた側のみ被害者が存在している訳ではない。
同じ人間を大量殺戮していくことは許しがたいが、それより尚信じて疑わない、また個人では贖うに及べない自国民に対して、意図的に核や放射能を被爆させ、その影響を調べようとしたその国家、政府のあり様は人としての暗さを超えて、ある種全ての道徳、人類全体のモラルに対する姑息な挑戦ともいえるのではなかろうか。

アメリカととソビエト連邦が激しく水面下で激突した東西冷戦時代、その初期段階にして最も対立が激しかった1950年代、核戦争演習目的で核実験に駆りだれたアメリカ軍兵士、及びこれと同じ事をしていたソビエトの演習参加兵士、またその実験場や軍事施設周辺の住民たちの、実験による放射能被爆実態は、現在に至ってもアメリカ、ロシアとも正確に公表していない。

1993年12月、アメリカエネルギー省は、核兵器開発の初期段階である1940年代から1950年代にかけて、核兵器開発の一環として、放射性物質の遺伝における影響を調べるため、妊婦にプルトニウムの体内注入や、放射性の鉄を含む薬の投与などを行っていたと、政府による「核の人体実験」の存在事実を正式に認めた。
しかもその被験者数は何と600人、彼女らは凡そ800件に及ぶ放射能実験を受けていたのであり、中には複数回の実験を受けた女性も存在していたが、その彼女らが出産した際、いかなる影響が子供に発生していたのかの報告は成されていない。

また1948年から1952年にかけて、ユタ州などでは旧ソビエトの核実験を探知する技術開発の為に、意図的に放射能を空中散布していたが、こうしたことは勿論軍事秘密で、住民たちには知らせるはずもなく、そのおぼろげな実態すら分かって来るのは20年、30年後のことなのである。

そしてこちらはソビエト連邦(ほぼ現在のロシア)、既にソビエトは崩壊していたため、ロシア政府によって1993年に発見された旧ソビエト軍の記録映画には、1954年9月にウラル山脈で原子爆弾を空中爆発させ、45000人の兵士と6200人の民間人を意図的に被爆させて、その人体的影響を調査したことが映像として残っていた。
こちらも名目は軍事演習だが、ではその後の調査記録はと言うと、それは消失してしまっている。

また1940年から1950年にかけて、20回以上も大気圏内核実験が行われた太平洋ビキニ環礁では、1990年代に措いてもまだ島民の帰島が許されていなかったし、フランスの核実験場であるフランス領ポリネシアや、中国の実験場である新疆ウイグル自治区、こうした地域での核被害の実情は、今日に至ってまで不明な部分が殆どである。

加えて現在核兵器を保有している国は、国連の常任理事各国とインド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮、そしてもう暫くすればイランも核兵器を所有するかも知れないが、これだけ拡散して来てしまっている。
更に近年の科学技術の発展は、核弾頭として飛ばすことは出来なくても、ただ核爆発を起こすだけなら、材料さえ揃えば少し詳しい大学生や、場合によっては高校生でも作れるかも知れない時代となっている。

現在世界における核被害者の数は、核実験や原子力発電所事故、その他の実験の影響などで、推測だが2000万人を超えていると思われているが、これでも1990年代の推測よりは1000万人少ないのは、被害者の逐年死亡があっての減少である。
今後予想されるアフガン、イラン、そして中東情勢の悪化は、科学の進歩によって、1950年代とは比べ物にならないほど手軽になってしまった核兵器と、どの程度連動して行くか、これによっても人類の運命は大きく変わっていくかも知れない。

また表に出ない核被爆者が攻撃を被る国ではなく、攻撃する側の国にも存在してしまうことを考えると、一時期アメリカやソビエトは本当に「神」の立場だったことをうかがい知ることが出来るが、その中枢にいた政府要人、国家代表はこうした重圧に良く耐えられたものである。
現代のアメリカやロシアの国家代表はここまでの重圧はないだろうが、これはどう言う意味かと言えば、統帥権の記事でも話したが、力の分散であり、こうして力が細かくちぎれて行くと、その先には個人的な感情を含んだ混乱が増えてくる。
そしてこうした現状に加え、手軽になった核兵器が浸透して行った場合、大国の国家代表の重圧は軽くなるが、その分一般民衆は計り知れない脅威に、怯えていくことになるのである。

T・asada
このブログの記事は「夏未夕 漆綾」第二席下地職人「浅田 正」 (表示名T・asada)が執筆しております。

4件のコメント

  1. 「核兵器」

    カザフスタンのセミパラチンスクに有るロシアの核実験場、地下核実験で出来たチャガン湖という人造湖(?)もある。
    今でも、そこらは高濃度の放射線が観測されている。少年の頃、奇形児の問題が少年雑誌で取り上げられていた。
    ついでながら、この国には、バイコヌール宇宙基地、現在もロシア連邦宇宙局が管理している。昔、カザフスタンで、大学の先生から、黒板を使って、宇宙ロケットを飛ばす方向を詳しく説明してもらった、緯度の関係で、発射基地の適地らしい。

    第五福竜丸の被曝はビキニ環礁の傍、フランスの核実験場であるフランス領ポリネシアや、中国の実験場である新疆ウイグル自治区でも、相当数の被爆者がいるだろうけれど、日本の平和主義者や反核団体は、安全パイの日本政府を責めるだけで、身を挺したことは絶対やらないから、全く信用していない、根っからのカスだ。

    “その中枢にいた政府要人、国家代表はこうした重圧に良く耐えられたものである。”という事のようですが、自分は、彼らは稀代のサイコパスで、なんともも思っていないだろうと、仲間の中には少しだけ、懊悩する人が居たとは思うが。

    きっと核戦争は、米ソ~米中の対立とかじゃなくて、性能の悪い北朝鮮の核と人が誤動作・錯誤で、フラフラ韓国に飛んで行って炸裂し、米軍が意味も分からず10倍返しして~~拡大して全面戦争、って笑えない話、真夏の夜の夢~~♪

    1. ハシビロコウ様、有り難うございます。

      核兵器の数は先進国ではかなり高性能化され、その制御も多様になりましたが、一方で安く作る事も出来る世の中ではあります。
      北朝鮮などを見ていると、どうもその性能は余りよろしくなく、しかも国際情勢に鑑みるなら北朝鮮が核を使うとしたら日本が一番標的に適している。
      これが良いとか悪いとか、許せるとか許せないの話ではなく、客観的現実がそうだと言う事を忘れてはいけないだろうと思います。
      アメリカの外交がトランプ大統領のおかげで揺れ動く木の葉のような状態の今、北朝鮮からの核攻撃の危機は増大していると考えるべきでしょう。

      コメント、有り難うございました。

  2. 「スケールフリー・ネットワーク」

    パキスタンで偶に路上にいる茹でピーナツ屋から買って食っていた。そんな時、同僚のパキスタン人は、彼らは、その売り上げで、見かけよりずっと裕福だ、と言って居た。ま、或る意味、呑気に生きていけて、思った時にモスクにも行けて、心の豊かな人生かもしれないが・・・

    からかって、副業で始めろと言っても誰もやらなかった。万が一、例えば難民の流入で新規参入が増えて調整が掛かれば3~4節季で、或る程度は落ち着く人数と価格に達するだろう。

    支那の様に、200~300年ごとに、王朝が盛衰・交代をするような、長期のものあるし、それぞれの事象には或る一定の周期というか、調整期間が必要なものだろう。
    大抵のものはそれが利いて、或る一定の安定を見るのだろうけれど、その期間中に、緊急措置が必要な事もあるだろうが、振り幅を極端な話0にしようとして、愚策を連発して、知恵も経験も、何も得ず、臨界点を超えて、自壊・自滅が頻発している。
    野党が選挙のたびに離合集散をして政策ではなく、甘い妄想を振りまいて、行くのは至近の例(!?)

    近隣の公立「歴史館」にフラフラ~ヨタヨタ、立ち寄ったら、ここでは、○○という事で「太平洋戦争開戦」って~~♪

    1. ハシビロコウ様、有り難うございます。

      スケールフリーネットワークはこうして見ると物理的な法則に近く、あらゆる物質の基本的な動きとも言えるかも知れませんが、人間のそれは最も解り易く、この意味では蜂や蟻の方が社会としては進んでいるのかも知れません。
      人間は基礎本能にとても弱く、他の動植物の基礎本能は半分義務の世界でも有るので、人間の本能だけが義務を排除し、欲求だけを追及する形になっているかも知れません。
      それゆえ人間の社会は豊かになると滅び易い。またスケールフリーの概念は自律分散処理形態に通じる世界でも有るので、体の構造なども同様の流れを持ち、更には渡り鳥の飛び方などにもこの方式が見られる事になります。

      コメント、有り難うございました。

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