「ロシアンルーレット」2

大日本帝国憲法、つまり太平洋戦争以前の憲法の規定では、もし次年度国家予算がその年度内に成立しなかった場合、前年度の国家予算を暫定予算として執行することが可能だった。

しかし戦後の日本国憲法の規定では国家予算の不成立条項は設けられておらず、絶対に成立を必要とする制度へと改変された。

この結果国会、特に最終決定権を持つ衆議院では国家予算の可決成立が国会議員の最大使命と認識されることになり、また内閣もその存続理由は全て国家予算成立に集約されてしまう傾向があった。

それゆえ過去衆議院、参議院で与党だけで予算が成立させられない場合、時の内閣総理大臣は自分の首と引き換えに野党と交渉し、国家予算を通過させることも辞さなかった。

日本国憲法の規定で国家予算不成立に関する条項がない以上、暫定予算であろうが本格的予算であろうが、とにかく内閣と与党は国家予算を衆議院で成立させなければ、事実上これは内閣不信任案が国会を通過したと同義である。

この点で言えば例えば野党と言っても国会議員である以上、同じように国家予算が成立させらない責任は、国会議員としての存在意義を疑われてしまう。

こうした背景から野党としては最も大きな与党、内閣の攻撃材料となる国家予算は、実は野党にとってもそれを人質に粘りすぎると「諸刃の剣」となり、もし国家予算を巡って与党と野党が対立した場合、そこではどちらが最後まで頑張れるかと言った、我慢比べのような状態が現れる。

半ば心理作戦のような姑息な手法が用いられるか、それで無ければ大衆の眼前では喧嘩しながら、それを元に後ろでは与野党が手を結んでいる状況が訪れるのである。

だが現状のように衆議院で安定的多数の国会議員を抱える民主党の場合は、例え参議院で国家予算が否決されても衆議院の可決が優先されることから、野党は最後まで反対し続けても、結果として予算は成立する訳だから、何を言っても国会議員としての仕事を果たしてしまう安心感がある。

その為、与党が衆議院で安定的多数を占めている場合の野党攻撃は激しいが、一方で大変虚しいものとなってしまう。

また国家予算の影に隠れ、大衆には理解しにくい部分も有るが、国家予算は「予算関連法案」が国会で可決されていないと、現状では予算の半分が実際に執行できない状況に陥ってしまう。

ゆえに民主党が国家予算を成立させたとしても、これから先「予算関連法案」が成立しないと、国家予算不成立と同じ効果を民衆が被ることになるのである。

粛々とやっていますと言いながら、それは見かけは確かにロシアンルーレットのように見えながら、その実はジャンケンだったりする。

そしてそうした姿を眼前で見ている国民は、やはりバカヤローと叫びたくなるのである。

[本文は2011年3月2日、Yahooブログに掲載した記事を再掲載しています]

 

T・asada
このブログの記事は「夏未夕 漆綾」第二席下地職人「浅田 正」 (表示名T・asada)が執筆しております。