「ロシアンルーレット」1

「おい、お前ら!、手を出すんじゃねーぞ」

「でも、オジきよー、オレはこいつだけは許せねーんだ」

「バカ野郎、丸腰のモンを袋叩きにしたと有っちゃこの辞民組の立つ瀬がねぇ、三下はひっこんでろ」

「でもよー、」

「くどいぞ石原!、てめえはそれより親父にしっかり鈴つけて、東京でもまとめさせねえと唯じゃおかんからな」

「辞民組」組長、「谷垣」は銀縁眼鏡の端をキラッと一瞬輝かせながら、ポケットに手を突っ込んだまま若頭の石原をどやしつける。

この日旧勢力である辞民組の事務所は騒然となったが、無理もない。

先のシマ争いではすっかりしてやられ、第二勢力に追いやれたこの辞民組へ、その憎んでも憎みきれない新興勢力の「民朱組」組長、「菅」が何を考えたか丸腰で乗り込んできたのである

「よー、兄弟、相変わらず元気そうじゃねーか」

「おめーもな、相変わらず靴下の裏みてーな面は変わってねーな」

まるでぺらんぺらんな薄笑いを浮かべる「菅」、それに対して「谷垣」はさりげなく厭味を入れるが、そうした在り様を制止するかのように「菅」は続ける。

「なー兄弟、今日は喧嘩しに来たんじゃねぇんだ」

「てめえ等といつまでもゴタゴタしてても埒があかねえ、ここいらでひと思いに決着をつけようと思ってな・・・」

「ほー、それは面白い。てめえ本当は民朱組でも評判が悪いらしいじゃねーか、ここらで一発逆転か・・・」

「まっ、そう言うところだ、どうだ一騎打ちで勝負をつけて、てめえが勝ったら俺は黙って身を引く、だがもし俺が勝ったら来年のかたぎ衆のやり繰り勘定を通してもらえねーだろうか」

「なるほど、そう来たか、あんなつぎはぎだらけの借金勘定、絶対通す訳にはいかねー・・・、と言いてえところだが、来年のやり繰り勘定を邪魔したとあっては、辞民組もかたぎ衆の受けは悪い、良いだろうその勝負受けようじゃないか」

「兄弟、やっぱり兄弟は男だな、分かってくれると思ってたぜ」

「で、一体何でけりをつけるつもりだ」

「兄弟、これはやはり命がけの方が示しが付く、ロシアンルーレットでどうだ」

「面白れーじゃねーか、誰かチャカ(拳銃)を用意しな」

こうしてさっぱりわけが分らない論理から、組長のロシアンルーレット対決となった辞民組と民朱組、早速手下から拳銃を受け取った谷垣、不正が無いよう手下達を部屋から全て追い出し、谷垣が新しく通い始めたキャバクラで働いている家出少女、つまり谷垣の新しい女だが、彼女に2人の目の前で弾丸を一発だけ拳銃に装填させ、回転式弾倉を手の平で一回だけシャーっと回転させると、それをテーブルの上に置かせた。

「用意はできたぜ、これで良いか」

「おう、じゃ始めようじゃねーか」

「立会人はこの女ってことで構わねーか」

「ああ、それでいいが、ところでどっちから先に始めるかはどうする」

「そうだな、ここは日本人らしくジャンケンと言うことにするか」

「良いだろう」

「ジャンケン・ポン!」

2人揃って声を張り上げる谷垣と菅、だがなんと1回目は二人揃ってチョキだった。

「よし、もう1回、全部で3回勝負だぞ」

「よっしゃ」

「ジャンケン・ポン!」

「兄弟、意外と俺とお前は気が合うのかも知れんな、グーで同じとはな・・・」

「仕方ない、これが最後の勝負だ、良いか」

「おお!」

「ジャンケン・ポン!」

「今度はパー同士か・・・」

暫く呆然として見詰め合う谷垣と菅、やがて菅がボソボソと言い始める。

「兄弟、何か虚しくならねーか」

「そうだな、第一なんでかたぎ衆の為に俺たちが命をかけねばならんのかが良く分からん」

「兄弟、これも何かの縁だ、来年の勘定はこのまま通させてくれ、そして俺が今夜は兄弟に一杯おごらせて貰う、これでどうだ」

「まー、仕方ねーな、それじゃ今夜は勉強会に連れて行ってもらうことにするか・・・」

 

こうして最後は肩を組みながらいかがわしいパブへと出かけていった谷垣と菅、一人部屋に残った少女は、やがてテーブルの上の拳銃を手に取ると、始めはそれを自分の頭に向けてみたが、思いなおして次は窓に向けて引き金を引いた。

「パーン」と言う乾いた音と共に一瞬にして砕け散るガラス窓、意味も無く笑いがこみ上げ、外から入ってくる冷たい夜風に、誘われるように窓へと近寄った少女はそこから大声でこう叫ぶ。

「バカヤロー!」

(この話は全てフィクションであり、登場する団体、人物名は全て架空のものである事をご了承ください)

「ロシアン・ルーレット」・Ⅱに続く。

[本文は2011年3月2日、Yahooブログに掲載した記事を再掲載しています]

 

T・asada
このブログの記事は「夏未夕 漆綾」第二席下地職人「浅田 正」 (表示名T・asada)が執筆しております。