「階段落ち」

「あっ」と思った瞬間だった。

滑った靴下に拠って階段の端から足が外れ、宙を舞った私の体は勢い良く長い階段をすべり落ち、最後に待っているコンクリートの土間にしこたま腰を打ちつけて止まった。

数年に一度は経験する「階段落ち」だが、私の仕事場は2階にあって、そこには長い木の階段がかけられているが、木製の階段は使っている内に適度な光沢なども出てきて、とても良い滑り具合になっている。
それで数年に一度は派手な「階段落ち」をやってしまうが、落ちる瞬間「これはまずいぞ」と思いながら落ちて行って、最後コンクリートの土間に体を打ち付けると、大体30分は痛さで起き上がれない。

やっと体が動くようになって、這うようにもう一度階段を上がった私が、擦りむいた両肘の裏側に絆創膏(ばんそうこう)を貼っていると、そこへまずい事に代表が出勤してきて、彼女は私の姿を見るなり、「またやったんですか?」と尋ね、私は「な~に、大したことは無かった」と答えた。

「私はね、その内親方(私の事)がいつかあっと言いながら階段から落ちて死ぬんじゃないかと、いつもそう思ってますよ」
そう言う代表に私は10年に1度の事だ、そんな頻繁に落ちている訳ではないと反論するが・・・。

「何を言ってるんですか、少なくとも年に2、3回は落ちてますよ」
「えっ、そんなに落ちてるか・・・」
「当たり前ですよ、覚えてないだけですよ」

と言う展開になって行く。

そして彼女曰く
「階段から落ちて死んだなんて、そんなふざけた死に方では、葬式に来た人はみんな怒りますよ」
と、続く事になる。

確かに家の実情もそうだが仕事も長い企画が進み、今階段から落ちて死んだなんて言うと「あのヤロー、なめた死に方しやがって」と言う事になりかねない。
彼らの怒っている顔が目に浮かぶようだ・・・。

昨夜は父親が腹痛を訴えて緊急入院、そして今は自分が階段落ちとは少しついていない・・・。
おまけにつまらぬ場面を見つかって代表からチクチク言われ、普通ならこれで意気消沈となるのだが、絆創膏を貼り終えた私は何故か機嫌が良かったりする。

それは何故か・・・。
元々強い凶男の私は大体こうしてついていない時の方に、その後に良い方向へ向かう判断をする傾向が有り、ついでにこうした時には金銭的なツキが有る。

階段から落ちて数時間後、参加している団体から余剰金が発生したとの事で10万円が舞い込み、やはり共益事業の積み立てが補助金が出る事になって還付、こちらは20数万円が即日入金された。

背中も腰も足も肘も痛いが、守銭奴の私としてはこうした事の嬉しさの方が自身の体の痛みに勝る。
どこかでは命より金だと言う部分を棄てきれず、しかも悪い事が有ると少しだけ未来に希望を抱いてしまうのは、こうした背景が有るからかも知れない。

それにしても昨日訪れた農機具店の店主の話ではないが、12月のこの暖かさはやはり少しおかしい・・・。
どうしても能登半島地震の時の事を思い出してしまう。

12月25日に雪が降ってから1月、2月と暖かくて全く雪が降らず、2月後半になってやっと雪が降ったかと思ったら、3月には震度6強の地震が発生した。
阪神淡路大震災の時もそうだったが、関東大震災を予言した小玉呑象(こだま・どんしょう)が言うように「地震の前には温暖なものなり」はある意味説得力を持っている。

日本の気候はこの後12月17日くらいから一時的に冬の気候になるが、その以後はまた暖冬傾向で有り、エルニーニョ現象と言う事が出来る。
地震は決してエルニーニョ現象に併発するものではないが、そのエルニーニョ現象もどこまでが基本範囲なのか、どこからがエルニーニョを超えた異常なのかが明確にならない。

日本各地で「何かおかしい」と言う声が聞かれる昨今、今の連続が未来なら、おかしいと思える今の連続の先には間違いなく「何かおかしい事」が待っていると思わねばならない。

唯、気にかかるのは「何かおかしい」と言う声が日本各地から聞かれる事で、この意味では先に待っている「何かおかしな事」とは日本全土に及ぶものかも知れない恐れが有る。

ちなみに「地震の前には温暖なものなり」にはもう一つ注意点が有る。
それは温暖な気候の、その温暖な感じが収束して平年値に戻ったところで巨大地震が発生する傾向に有る事で、この温暖から平年値に戻って地震が発生する間の時間はランダムであり、特定の傾向を持たない。

温暖な気候が収まった翌日の場合も有れば、1ヶ月後の場合も有り、こうした傾向から巨大地震が発生するまでには、更に多くの「何かおかしい」が積み重なって行く。

ちなみに中規模の地震は雨の日でも発生するが、巨大地震が発生する直前の気候は「晴れて風が無い」が状態が多く、場合に拠っては例え嵐の最中でも巨大地震の場合は、その嵐を一時的に停止させて発生する場合が有る。

[本文は2015年12月16日、Yahooブログに掲載した記事を再掲載しています]

 

T・asada
このブログの記事は「夏未夕 漆綾」第二席下地職人「浅田 正」 (表示名T・asada)が執筆しております。