「日本は今どこにいるのか」・Ⅰ

人間は自分のことが一番良く分かっていないものだ。

鏡に映った自身の姿を見たとしても、その姿の何が良くて、何が悪いのかは分からず、それは悪い意味に置いても、良い意味に置いても評価ができないものであり、そもそうした意味では正しいと言う概念そのものの存在が既に危うい。

まして自身の有り様が困難な状況にあれば、自分が自分に下す評価は暗いものになり、その暗い視線で周囲や社会を鑑みることは、その周囲や社会に対する正当な評価とはならず、もし自身の感情がそうした暗い評価から端を発したものなら、自分が見ている価値観は自分が作り出した暗い幻影かも知れない。

段位のある勝負事で一番実力があるのは、三段から五段だと言われ、これは柔道、剣道、将棋の世界もそうかも知れないが、これ以上の段位と言うものは少しずつ名誉段位の意味合いが強くなるものらしい。

そしてこうしたことから、では三段、五段と言った地位の人に話を聞けば自信満々なのかと言えば、その勝負に対して一番怯え、恐れているのもまたこうした段位の者たちである。

それは何故か、勝負の世界でも仕事でも一番実力のある者とは、その世界のあらゆることに通じているからこそ、練習に練習を積んでも僅か紙一重のところでそれに追いつかない恐ろしさ、また偶然と言う魔物の存在を知っているからに他ならならない。

ゆえにその勝負事に対して恐れを知る者ほど謙虚な者となるが、しかしこれは一方で自分が最高位の実力を持つことを、自分自身が認識できないと言う側面を持つ。

本当に実力のある者とは、強くて謙虚であるがゆえに、自分の大きな実力には気が付かず、たった1人で自分自身と闘っているものだ。

そして僅か唯1人の人間でもこうした有り様である。

これが国家ともなれば、その国家の正確な評価は一体何をしてそれを量ることができようか。

日本は今かつて経験したことのないような「無気力」の中にあり、高齢化社会、少子化、経済の停滞、政府の無策ぶりに、緊迫するアジア中東情勢の中でアメリカ、中国と言う大国の狭間にあって、成す術もなくただ翻弄される木の葉のように見える。

しかしこれは本当の意味で日本の正当な評価だろうか、我々は実は自身を取り巻く環境の暗さから、その日本と言う国家に対して正当な評価ができていないのではないか、そんなことを思わずにはいられない。

日本と言う国家は明治の開国以来、欧米の文化、そしてその「力」に追いつこうと大変な努力をしてきたが、一度は届きかけたそうした夢は、太平洋戦争の敗北によってついえたかに見えた。

そしてアメリカの庇護の下、アメリカをイギリスをフランスを、いつもその目標としてきたが、その実あらゆる状況、これはよくも悪くもだが、そうしたものを「経験」と言う観点から考えるなら、少なくともバブル経済が崩壊した時点から、日本はどこかで世界の頂点となったのではないだろうか。

現代社会の価値観は「経済」や「軍事力」、またはどれだけ他国に対して支配的な影響を持つかで、その国家の国際的な地位が決まってくるかのように思えるかも知れないが、経済は留まることを知らず、常に動き安定しないものであり、これを止めて考える者は流れている川の水を写真に留めてそれを判断しているようなものであり、また軍事的な力、他国を支配的影響下に置くことができる状態も、100年と言う単位では不可能な事になる。

我々はもしかしたらこうした虚ろい易いものをして、国家と言うものを量ってきたのではないか、そしてこうした意味では30年前はアメリカで起こることは10年後に日本で起こるとされてきたが、バブル経済と言うものを考え、その崩壊から今日の日本を考えるなら、いつしか経済に措いては、常に日本が良くも悪くもその国際的な指標となるものを経験し続けているのではないだろうか。

日本は1990年初頭にバブル経済の崩壊を経験したが、アメリカが同じ経験をしたのは2年前、ヨーロッパでも同じようなものだが、こうした際に取られた政策は各国がそれに独自性を意識していたとしても、それは既に日本が過去、バブル経済崩壊に対して講じたあらゆる政策の中に含まれるものでしかなかった。

また民族が豊かになって平均寿命が延び、それに伴う高齢化社会の出現と言う点でも、これは裏を返せばそれだけ成熟した社会を形成できたと言うことであり、生物的、民族的、また文明社会と言うものを鑑みるなら、日本はアメリカやイギリス、フランスに追いつきたいと頑張ってきて、知らぬ間に本当は追い越してしまっていたのではないだろうか。

 

「日本は今どこにいるのか」・Ⅱに続く

※ 本文は2010年10月26日、Yahooブログに掲載した記事を再掲載しています。

 

T・asada
このブログの記事は「夏未夕 漆綾」第二席下地職人「浅田 正」 (表示名T・asada)が執筆しております。