「おはぐろ美人局」

「美人局」(つつもたせ)と言う文字を初めて見たのは、小学生の頃に読んでいた昭和史の中での記述だったが、当時の私には(びじんきょく)としか読めなかったものの、その文字から艶かしく、怪しい雰囲気に少しドキドキしたものだった。

ちょうど北朝鮮の「よろこび組」みたいなものを想像していたのだが、後年その意味を知って、幼き頃の印象もあながち間違っていなかった事を思い、今は感慨深い。

モンゴル民族が中国支配を強める時期、力によって他人の妻でも自分のものに出来る事が一般的だった、また妻は兄弟の仲では共通だった慣習を持つモンゴル民族が、中国で女が金銭的詐欺に使われる、夫婦してそれに加担する文化的背景に接し、これを犯罪と定義するようになった。

元々中国では女に騙されて金をぼったくられるくらいは、そう大きな犯罪の意識が無かったのだが、これを統制したのはモンゴル民族の意識だった。
従って「美人局」の語源は夫婦が共謀して妻が男を誘い、そこでのこのこ服を脱いだ男を夫が「俺の女房に何してくれるねん」と脅し、金を巻き上げる犯罪の名称だった。

だが、「つつもたせ」と言う言葉の語源は「ぼったくり」、中身の無いものを掴ませる事、或いはそのお膳立てを意味していて、古くは市で露天商が行う「籤引き」(くじびき)や懸賞付きの品物、法外な料金を請求する飲食店や酒店、イカサマ賭博などもみな「つつもたせ」と言い、「美人局」は後年の当て字である。

簡単に言うなら「いっぱい食わせる」事を全て「つつもたせ」と言うのである。

2014年7月9日、厚生労働省は全国の生活保護受給者が同年4月の段階で、前月より11292人減少した事を発表し、これは4月と言う進学や就職の盛んな時期と言う事が要因としながらも、景気回復効果も考えられるとした。

しかし生活保護受給者の受給資格は年々厳しくなり、その背景には地方自治体の財務状況の圧迫に有る事から、昨年に比べて今年の受給資格審査は一段と厳しくなっていて、「困ったらいつでも来てくださいよ」と言いながら、現実には受給申請者の、その困った度合いがどんどん引き上げられているのである。

つまり生活保護受給者の減少は、確かに4月と言う特殊性は考えられるものの、その他の要因は窓口となっている地方自治体のせき止めによって実現されている可能性が高い。

日本銀行は現在年間60兆円前後の規模で金融機関に資金を流しているが、これによって今年3月までの民間企業の預金残高は232兆円と約4%上昇したが、借り入れ金の伸び率は1%である。
上昇分の4%の内、3%が止まっているのである。

また同じように全国の金融機関を見てみると、こちらも今年3月時点で昨年同期より31兆円も預金残高を増やしているが、貸し出しは11兆円しか増えていない。
年間20兆円もの金が銀行で止まっている。
金が企業や銀行に留保されていてその下へ流れて行っていないのである。

更に政府が株式投資を促進させようと宣伝に余念のない「NISA」(小額投資非課税措置)、これは通常なら20%が課税される株式、信託投資などの売却配当益が年間100万円まで非課税となり、合計で500万円までが利用できる制度だが、この口座開設に殺到したものは60歳以上の年代層である。

実に65%が60歳以上の年代で占められ、本来若年世代の資産形成を考えて創られた制度でありながら、30代では6・5%、20代に至っては応募者全体の僅か2%しか利用していない現実は、ある種既に資産形成を終えた高齢者の資本移動、それも持っている者が更に有利になっただけに終わった形である。

ここでも制度や資金が既存によってせき止められ、本来その制度を使って有利ならなければならない世代が全く恩恵を受けず、しかし消費税は上がり物価は上昇し、公費、準公費負担は増加する一方と、若年世代や低額所得者の負担が、より金を持っている者へと吸い込まれているようなものなのである。

こうした事の社会的背景の基本は「不信」である。
簡単に言えば企業の設備投資や先行投資が進んでいないのであり、その原因は「アベノミクス」と言うふやけた経済政策の行き詰まりを予見した動きが有ると言う事になる。

日銀の量的緩和政策は解るとしても、必ずセットで行うとした行財政改革に至っては素案すら出て来ない。
唯紙幣を印刷し続ければその先どうなるかは馬鹿でも解る。

にも拘らず妙な時期に集団的自衛権の容認に情熱を燃やす安部総理に対して、国民はもとより、うまい事を言って減税と言う恩恵を受けた企業ですら、その言葉とは裏腹に安倍総理の方針に疑問を感じていると言う事である。

そして「国民の皆さん景気は良くなりましたよ、どんどん物を買ってください」「安心して投資してください」と言っているのだから、これは「ぼったくり詐欺」である。
景気回復と言う美女を餌に、国民と言う男から増税と既存勢力の安泰をむさぼり、法人税は減税された、公務員や国会議員に課せられていた震災関連減給措置も解除された。

だが国民には従来の負担に加え消費税増税、震災復興税の課税、物価上昇が課せられ、貧しい者が豊かな者を支えると言うのは、少しひどいのではないのか・・・・。

美人局の基本は自分の妻か、関係している女を使ったぼったくりの事を指し、それ以外の女を使う場合は「売春」である。
この事から既婚女性の「おはぐろ」が一般的だった江戸時代は、美人局詐欺は少なかった。

「おはぐろ」は人の妻、それに手を出すとヤバイ事は明白だったのである。

調子に乗って喋り過ぎた安部美人局、その口元から垣間見える「おはぐろ」に皆警戒感を持ち始めている。
しかも今の日本は万事が万事、どこかで何もかもが美人局的な傾向に有る。

[本文は2014年7月11日、Yahooブログに掲載した記事を再掲載しています]

 

T・asada
このブログの記事は「夏未夕 漆綾」第二席下地職人「浅田 正」 (表示名T・asada)が執筆しております。