「別れの言葉」

「生きているなんぞ、つまらぬものだな・・・」、無意識のうちに口をついて出た私の言葉に、スタッフの女性が「どうしたんですか・・・、何かあったんですか」と問いかけたが、はっと我に帰った私は「いや、何も・・・」と答えた。 19...

「坂道を上って行く車」

ヨハネスブルグで溶接業を営むA・カリルは、ある日、ヨハネスブルグからベリーニングに続く主要道に沿って、約10kmばかり続いている1つの丘のふもとへ入る道に自動車を止めた。 客と約束した刻限までにはまだ時間がある、天気も良...

「蛾が前を飛ぶ」

  蝶(ちょう)と蛾(ガ)はほぼ同じものだが、日本に措ける一般的な見分け方として、蝶は草木に留まっている時は羽を閉じているが、蛾は羽を横に広げて留まっているとされるものがあり、また蛾は夜行性で蝶は昼に活動する事...

「天の怒り」・3

「それはどこか熟し切った杏(あんず)の匂いに近いものだった。彼は焼け跡を歩きながら、かすかにこの匂いを感じ、炎天に腐った死骸の匂いも存外悪くないと思ったりした。が、死骸の重なり重なった池の前に立ってみると、「酸鼻」と云う...

「天の怒り」・2

「ジリジリと顔は焼ける、髪の毛は焦げる・・・、たまらなくなったか1人2人と意を決したのか、ザンブとばかり身を躍らせて弁天池に飛び込めば、今はこれまでなりと、周囲にあった男女約1000名、我も我もと池中に飛び込んだ。しかし...